会長声明

2004/09/03

合意による弁護士報酬敗訴者負担制度についての会長声明

2004年(平成16年)9月3日
第二東京弁護士会 会長 山田 勝利

 いわゆる「合意による弁護士報酬敗訴者負担制度」を含む民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案が、先の第159回通常国会に上程され、現在、継続審議となっている。この法律案は、当事者双方が訴訟代理人である弁護士を選任している場合、当事者双方の合意に基づく共同の申立てがあるときは、当該審級における訴訟代理人の報酬を敗訴者の負担とするというものである。訴訟上の合意がない限り弁護士報酬を敗訴者が負担することとはされないものの、訴訟外の一般の契約・約款における敗訴者負担の合意までが無効とされるものではないとされている。

 しかし、訴訟上の合意により弁護士報酬が敗訴者の負担となるとの制度が施行されるところとなれば、訴訟外の一般の契約・約款に敗訴者負担の合意や約定が誘発され蔓延していくことは明白と言わざるを得ない。かくては、消費者と事業者、労働者と使用者、零細企業と大企業の如く社会経済的地位に優劣のある当事者間の契約・約款において、いよいよ敗訴者負担の合意が盛り込まれるところとなり、そのため、劣位にある者は、原告として訴訟を提起することにも被告として訴訟を受けることにも躊躇逡巡するところにならざるを得ない。結局、本法律案が企図した司法アクセスの拡充による「市民に利用しやすい司法の実現」は阻害されることとなることは明らかである。

 加えて、訴訟の結果を予測することは極めて困難であるにも拘わらず、本制度が導入されれば、弁護士は訴訟の初期の段階から勝訴敗訴の判断を強いられることとなる。かつまた、同意をして敗訴した場合と同意をせず勝訴した場合とのいずれの場合においても弁護士は依頼者の信を失うのみならず、同意をすることを拒否した場合の依頼者の敗訴の可能性への不安は少なくなく、ここにおいても依頼者と弁護士との信頼関係が損なわれる危惧が否定できない。それによって「市民に利用しやすい司法の実現」が阻害されることは明らかである。

 さらには、弁護士法改正により「弁護士の報酬に関する標準を示す規定」は本年4月に廃止されたにも拘わらず、本制度が導入されれば裁判所によって弁護士報酬が事実上定められることとなり、2001年3月に閣議決定された規制改革推進3か年計画に示された弁護士の自由な競争が阻害されることになりかねない。それによって、依頼者の弁護士の選択の範囲は狭められ「市民に利用しやすい司法の実現」が阻害されることは明らかである。

 ここに当会は、司法に対する市民のアクセス拡充の観点から、「合意による弁護士報酬敗訴者負担制度」の導入に強く反対するものである。

もどる