会長声明

2002/04/10

人権擁護法案に対する声明

2002年(平成14年)4月10日
第二東京弁護士会 会長 井元 義久

  1.  政府は、平成14年3月8日、新たな人権救済機関の設置を盛り込んだ人権擁護法案 を閣議決定しました。これまで日本弁護士連合会(以下「日弁連」といいます。)は、人権擁護推進審議会が答申した国内人権機関(人権委員会)の創設について、長年にわ たって人権擁護活動に尽力してきた立場から検討を重ね、同審議会で構想されている国内人権機関が独立性を欠如している点などを指摘する意見を発表してきました。これらの検討を踏まえ、日弁連は昨年12月20日、同審議会の最終答申に対して意見書を提出し、人権委員会の独立性の確保を訴え、答申内容の是正を強く要望しました。これらの意見は、単位弁護士会の意見をも反映したもので、第二東京弁護士会としても異論はありませんでした。
  2.  ところが、このほど発表された政府法案は、上記日弁連の意見がまったく反映されておりません。日弁連が求めてきたのは、政府から独立し、独自の調査権限を有する実効的な国内人権救済機関です。しかし、政府法案に基づく人権委員会は法務省の外局として設置されており、人権委員もわずか5名とあまりにも少ない他、事務局員の独自採用 なども盛り込まれておらず、独立性が不十分です。また、地方法務局長への事務委任が予定されていたり、人権擁護委員制度の改革が十分に盛り込まれていないなど問題点が多く、人権擁護機関としての実効的活動が期待できないことが明らかになりました。しかも、当会に申し立てされる人権救済事案の状況から判断しても、刑務所や入国管理局など、法務省所管下の機関による人権侵害行為が多発する状況は改善されておらず、法務省の管轄下の人権委員会では、人権侵害を十分に救済できるか相当疑問が残ります。このような人権委員会は、国連人権規約(自由権規約)委員会の勧告を充足するものではありません。
  3.  また、政府法案は、人権委員会に対し報道機関による人権侵害行為を規制する機能を付していますが、この点にも強く反対します。上記のように、法務省から独立していない機関が報道機関を規制するならば、その規制は法務省によって恣意的に運用されるおそれがあり、報道機関に萎縮効果をもたらすことが明白だからです。報道による人権侵 害が繰り返されるなど、報道機関自身にも問題があり、報道機関から独立した、実効性のある苦情処理機関が必要なのは言うまでもありませんが、報道機関の持つ権力を監視する機能を不合理に縮小させることは避けなければなりません。この観点から、法務省からの独立が不十分な人権委員会による救済手続は、かえって報道の自由を侵害する危険性があり、容認できません。
  4.  当会は、上記の理由から政府法案に強く反対します。

もどる