弁護士による依頼者密告制度(いわゆるゲートキーパー制度)に反対する会長声明

会長声明

2006/03/31
2006(平成18)年3月31日
第二東京弁護士会 会長 高木 佳子

■2003年(平成15年)6月20日、FATF(国際的なテロ資金対策に係る取り組みである金融活動作業部会の略称)は、マネーロンダリング及びテロ資金対策を目的として、金融機関に加え、弁護士などに対しても不動産の売買、資産の管理等一定の取引に関し、「疑わしい取引」を金融情報機関(FIU)に報告する義務を課すことを勧告した。
 これを受けて、2004年(平成16年)12月10日、政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」は「テロの未然防止に関する行動計画」を策定し、上記FATF勧告の完全実施を決め、2005年(平成17年)11月17日には、FATF勧告の実施のための法律整備の一環として、金融情報機関(FIU)を金融庁から警察庁に移管することを決定し、法案を2007年(平成19年)の通常国会に提出するとした。
 予定される法案においては、弁護士は、自らの依頼者の取引について、違法性が疑われるレベルでその事実などを通報せざるを得なくなることが想定される。

■世界中の弁護士は、FATF勧告自体につき、弁護士職・弁護士制度の本質を傷つけることを理由に、強く反対をしてきた。
 弁護士は、法律に関する専門知識を有するだけでなく、国家権力から独立して依頼者の人権と法的利益を擁護し、法による支配と民主的社会を実現することを職務の本質とする。そのため弁護士は、職務上知り得た秘密を保持する権利と義務を与えられているのであり、一方、市民にとっては秘密のうちに弁護士と相談をすることができる権利が保障されているといえる。弁護士に課されている高度の守秘義務の存在が、市民と弁護士との信頼関係を築く基礎である。これにより、依頼者は安心して弁護士に真実を述べることができ、弁護士は適切な助言を与えることができる。更に、依頼者は弁護士の助言に基づき、違法な行為を思いとどまることになり、これにより法遵守の促進も図られるものである。
 しかし、この制度は、依頼者を政府に密告することにつながり、依頼者との信頼関係を根底から掘り崩すことになるうえ、弁護士が依頼者を通じて果たしている法の支配の機能を危うくするものである。

■諸外国の状況を見ても、経済協力開発機構(OECD)の最大の加盟国であるアメリカにおいては、アメリカ法曹協会(ABA)の反対によって、制度化は現実化していない。カナダにおいては、既に弁護士に通報義務を課す法律が制定されたが、弁護士の独立を侵害するという理由で、すべての州の州最高裁判所における法執行差し止め決定がなされ、法律は執行前に撤回され、政府はその制度化を断念したと伝えられる。ヨーロッパにおいても、ベルギー・ポーランドの弁護士会が憲法訴訟を提起しており、欧州弁護士会評議会(CCBE)はこの制度について撤回を求めている。

■この制度において、弁護士は依頼者に対して、内報すること(政府に通報することの事前通知)を認められていない。政府の決定は、つまるところ弁護士によって依頼者を警察に密告する制度を作ろうとするものである。このような制度の創設は、弁護士が警察の管理監督の下におかれることを意味し、市民の弁護士に対する信頼を侵害し、弁護士制度の存在意義を危うくし、ひいては司法制度の根幹を揺るがすこととなる。

 当会は、全会員が一丸となって、我々の依頼者である市民とともに、この立法の制定に強く反対し、これを阻止するための運動を展開していく所存である。

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