会長声明

2006/05/30

教育基本法の「全部改正」案に反対する会長声明

2006(平成18)年5月30日
第二東京弁護士会 会長 飯田 隆

  1. 政府は、今通常国会に、教育基本法の「全部を改正する」法案を上程し、衆議院教育基本法に関する特別委員会において実質審議に入った。
  2. 教育基本法は、憲法が保障する教育への権利を実現するための根本法規であり、準憲法的な性格を持っている。それは、憲法の理念・価値や子どもの権利条約などの国際準則に則っていなければならず、それを改正する場合にも、その立法事実があるかについて、現在の子どもたちの権利状況と教育の現状に対する冷静な分析をふまえ、慎重に検証しなければならない。
  3. この観点からみるとき、現時点で現行法を全面改定する必要性の検証が十分になされたとは考えられない上、上記法案には、以下のとおり、憲法や国際準則に抵触し、子どもの権利を侵害する危険性が存することを指摘しなければならない。
    (1)第2条(教育の目標)5では「伝統と文化を尊重し」、「我が国と郷土を愛する」「態度を養う」ことを掲げている。
     しかし、国を愛する態度を養うことを教育の目標とし、公教育の場において個人の内面価値に立入って評価の対象とすることは、憲法第19条の「思想及び良心の自由」との抵触という問題がある。
     また「伝統・文化の尊重」も、何を「伝統」とするかあいまいなまま「愛国心」と結びつけられるおそれがある。
    (2)第16条(教育行政)は、教育が「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべき」と定め、国に対しては、「教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため、教育に関する施策を総合的に策定し実施」する義務を課している。そのうえで、第17条(教育振興基本計画)を新設して、政府が「教育の振興に関する施策についての」「基本的な計画」を定めると規定している。
     しかし、現行法第10条の教育の直接責任と教育行政の条件整備義務の原則は、戦前の教育に対する深い反省に基づいて定められたものであり、教育がときの国家権力の政治的な意思に左右されずに、自主的・自律的に行われることを保障するうえで重要な役割を果たしたものである。この2つの原則を削除したうえで、教育が「法律の定めるところにより行われるべき」と規定することは、教育行政による教育内容への過度な介入をも適法化しかねず、現行法第10条の立法趣旨を根本から否定することにつながるおそれがある。
  4. 以上のとおり、上記法案には、重大な問題があり、子どもの権利の保障と推進に重大な関心を持ってきた当会として看過することができない。

 ここに、教育基本法の「全部改正」案に反対するとともに、政府と国会に対して、実質審議入りした法案の取り扱いに慎重を期すことを強く要望するものである。

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