会長声明

2006/05/31

憲法改正国民投票法案に反対する会長声明

2006(平成18)年5月31日
第二東京弁護士会 会長 飯田 隆

 去る5月26日、与党(自民・公明党)と民主党は、憲法改正に必要な手続きを定める「憲法改正国民投票法案」を、それぞれ衆議院に提出した。これまで与党は、民主党と共同の法案提出をめざして協議を続けてきたが、合意に至らず、与党と民主党が別々に法案を提出したものである。
 憲法改正国民投票は、言うまでもなく、国会が提案する憲法改正案を国民自身が投票によって直接にこれを承認するという、国民主権の原理を貫くきわめて重要な制度である。加えて現行憲法は、憲法改正の重要性にかんがみて、世界の憲法の中でも改正の難しい硬性憲法としている。憲法改正手続きを法律で定めるにあたっては、これらの現行憲法の基本原理が最大限に尊重されなければならない。
 今回衆議院に提出された与党案と民主党案は、いずれも、従来から批判の強かったメディア規制を削除するなど一定の修正を施している。しかし、なお現行憲法の基本原理に照らし、次のとおり看過し得ない重大な問題がある。

1 投票運動の禁止と罰則規定を見直すべきである
 与党案は、公務員・教育者が「地位を利用して国民投票運動をすること」を禁止し、違反者に対する罰則規定を設けている。しかし、このような禁止規定は、憲法改正に関する国民の言論・表現活動を不必要に萎縮させる結果をもたらすことは明らかである。憲法改正国民投票にあたっては、国民に改正案の内容や必要性・合理性についての十分な情報が提供され、国民の間で十分な議論がなされることが必要である。そのためには、国民投票運動の自由こそ法律上最大限に保障されなければならないのであって、与党案の禁止規定・罰則規定は、到底容認することができない。

2 組織的多数人買収・利害誘導罪の設置を見直すべきである
 与党案は、憲法改正国民投票に関し、組織による多数の投票人に対する買収と利害誘導について罰則を設けている。しかし、犯罪の構成要件は明確でなく、憲法改正に関する国民の言論・表現活動を不必要に萎縮させる結果をもたらすことは1で述べたのと同様である。また、そもそも憲法改正国民投票に関する買収や利害誘導がどのような形態で行われるのか、罰則で禁止する実益があるのかという点が充分に検討されておらず、かかる罰則規定を設けることには反対である。

3 国民の承認には、投票総数の過半数の賛成を必要とするとともに、最低投票率に関する規定を設けるべきである。
 国民投票の方法につき、与党案は「憲法改正案に対し賛成するときは○の記号を、反対するときは×の記号を自書」するものとし、白票を無効としたうえで、「憲法改正案に対する賛成の投票の数が有効投票の総数の2分の1を超えた場合は、当該憲法改正について国民の承認があったものとする」と規定している。これに対し、民主党案は「憲法改正案に対し賛成するときは○の記号を自書し、反対するときは何らの記載をしないでこれを投票箱に入れなければならない」とし、「憲法改正案に対する賛成の投票の数が投票総数の2分の1を超えた場合は、当該憲法改正案について国民の承認があったものとする」と規定する。そして、どちらの法案も、国民投票が有効に成立するための最低投票率に関する規定を設けていない点では共通である。
 憲法改正の重要性にかんがみ、改正の要件を厳格にした現行憲法の趣旨からは、憲法改正案に積極的に賛成しない意思の表明と考えられる白票=棄権を無効票として扱う与党案は妥当でない。少なくとも、棄権者を含めた投票総数の過半数の賛成がなければ国民の承認は得られないとすべきであり、この点では、民主党案のほうがより制度趣旨に沿うものといえる。しかしなお、憲法改正についての国民の関心が低く、投票率が低い場合には、国民(投票権者)総数からみた一部の者のみの賛成で憲法改正が可能となり、硬性憲法とした趣旨を没却することになる。憲法改正という国政の重要な問題について、多くの国民が積極的に憲法改正を望んでおり、その承認を得たと評価できる要件として、最低投票率に関する規定を設けるべきである。

4 発議から投票までの周知期間を見直すべきである
 与党案も民主党案も、憲法改正の発議から国民投票までの周知期間を、60日以後180日以内と定めている。憲法改正の是非を国民的に議論し、最終的な判断を下すのに十分な期間であるのかは、慎重に検討すべき問題である。全国的な公聴会の開催なども視野に入れ、周知期間を再検討することを求める。

5 国民投票無効訴訟のあり方を見直すべきである
 与党案も民主党案も、国民投票に関し異議がある投票人が訴訟を提起できる期間を、国民投票の結果の告示の日から30日以内とし、一審の管轄裁判所を東京高等裁判所に限定している。しかし、通常の行政事件取消訴訟ですら出訴期間が6か月あるのに、憲法改正というきわめて重要な事項について30日間しか提訴できないというのは、到底容認できない。また、東京以外の地域に居住している多くの国民の、憲法改正についての裁判を受ける権利を著しく制限するもので、この点についても同様に容認できない。

6 結論
 以上のように、今回の法案には多岐にわたって重大な問題点があり、当会はいずれの法案にも到底賛成することができない。国会での同法案の審議には十分な時間をかけ、さまざまな国民や専門家の意見を取り入れて慎重な審議をされるよう、強く求めるものである。

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