会長声明

2008/04/24

無罪判決を受けた外国人の勾留に関する会長声明

2008年(平成20年)4月24日
第二東京弁護士会 会長 庭山正一郎
08(声) 4号

 本年4月9日、東京高等裁判所第5刑事部は、覚せい剤取締法違反及び関税法取締法違反の被告人であるスイス人女性に対し、無罪判決を言い渡した。本件は、昨年8月22日、第一審である千葉地方裁判所が、無罪判決を言い渡して勾留が失効したが、その後、第一審自らによる再勾留、勾留取消し、上記第5刑事部による再々勾留を経て、最高裁判所もこれを支持した結果、被告人は終始勾留されたまま判決を迎え、昨日、上記無罪判決が確定するという経過を辿ったものである。
 本件の被告人の勾留期間は、逮捕時から通算すれば1年5か月、また、第一審の無罪判決を受けた後に限っても、7ヶ月余りも勾留されたものであり、無罪の者がこれだけの期間勾留された結果は重大であって、その間に受けた被告人及び家族の苦しみは計り知れない。
 無罪判決を言い渡した第一審による再勾留はもちろんのこと、たとえ控訴審であっても、第一審で無罪と判断された被告人を再勾留することは、市民の感覚からすれば極めて違和感のある事態である。最高裁が再々勾留を認めた決定は、日本人と外国人とを区別せずに無罪判決後の勾留の余地を認めているが、来年から裁判員裁判が実施された際に、かかる運用がなされるとすれば、市民が関与して結論が出された無罪判決の意義を大いに損ないかねず、裁判員裁判のあり方自体への批判も噴出しかねない。
 第一審の無罪判決後検察官控訴があった場合における外国人の勾留が問題となった事案は、既に2000年のいわゆる電力会社女性社員殺害事件等があり、当会は、同事件の無罪勾留に関し、勾留制度の適正な運用を求めて会長談話を発表している。本件事件は、改めて、わが国における勾留制度の問題の一端を浮き彫りにしたものといえる。
 裁判員制度の実施を1年後に控え、いわゆる「人質司法」を打破することが喫緊の課題である状況下にある。当会は、我が国の勾留制度が、憲法、国際人権法及び刑事訴訟法の基本原則に則り忠実に行われること、そして、無実を争う者の人身の自由が保障された状態で公正な裁判を受けることの重要性を広く市民に訴えていくとともに、引き続き勾留制度の改善のための諸活動に取り組んでいく決意である。

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