会長声明

2008/04/25

非司法競売手続の導入に反対する会長声明

2008年(平成20年)4月25日
第二東京弁護士会 会長 庭山正一郎
08(声) 5号

 政府の規制改革会議及び自民党司法制度調査会において、競売手続の合理化、迅速化を目的と称して、非司法競売(民間競売)手続(以下「非司法競売」という)の導入の可否が検討されている。
 非司法競売手続とは、裁判所主宰で行われている我が国の不動産競売について、担保設定時に債権者と債務者が合意した場合には、裁判所の関与なしに、民間の機関が競売手続を行う制度とされている。そして、その具体的な特徴として、i)融資時に債権者と債務者、所有者間で競売の実行方法を取り決め、ii)現況調査報告書・評価書・物件明細書のいわゆる三点セットを不要とし、さらにiii)売買価格の下限規制も設けないこと等が挙げられている。
 
 しかし、上記のいずれの特徴についても、以下に述べるとおり、到底看過できない問題点があることを指摘せざるをえない。

  1.  立法事実の欠如
     現行の不動産競売制度は、近時の民事執行法をはじめとする一連の法改正及びその運用によって、極めて円滑に機能している。かかる事実は、不動産競売事件の4分の3は申立から半年以内に売却が実施され、また売却率も全国では81%を超え、東京地裁では100%に近い数字となっているなど、統計上の数字からも裏付けられているところである。
     したがって、非司法競売制度を今なぜ敢えて創設しなければならないのか甚だ疑問であり、端的に言えば、そもそも非司法競売制度の導入の必要性を基礎付ける立法事実自体が存在していないものである。

  2.  三点セット及び競売価格下限規制の撤廃の弊害
     非司法競売制度においては、いわゆる三点セットが不要とされ、競売価格の下限規制が撤廃されている。
     しかし、三点セットは、対象物件の占有権原の有無、法定地上権の成立、賃借権の承継等の物件の権利関係が記載され、関係者に対して必要な情報が開示される手段として重要な意義を有している。とりわけ買受人にとっては、落札の際、買受後のリスクを検討するために、三点セットの検討は必要不可欠である。
     他方、競売価格下限規制についても、対象物件の価値とかけ離れた不当な廉価売却・安値落札を防止し、もって債務者の財産権を保護し、後順位抵当権者の回収への期待の保護も諮る重要な制度である。とりわけ、我が国においては、物的担保から回収できない残債部分について債務者・保証人から回収がなされることとなるいわゆるリコース・ローンが主流であるから、債務者・保証人は、担保物件がいかなる価格で売却されるかについて大きな利害関係を有しており、競売価格下限規制の有する意義は大きい。
     にもかかわらず、万が一にも三点セットが作成されないこととなれば、対象物件に関する第三者への情報開示は閉ざされ、買受希望者は、対象物件に関する情報に接することが極めて困難となり、不測の損害を蒙りかねないこととなる。その結果、かかるリスクを回避するため、特に一般人は安心して競売に参加することができなくなり、ひいては、多くの人が入札に参加できなくなり、競売価格下限規制の撤廃と相俟って、安値落札を招くという悪循環が生じるばかりか、債務者の経済的更生を阻害する事態を招来することも容易に想定しうるところである。
     したがって、三点セット及び競売価格下限規制の撤廃は、それによって大きな弊害を招くことを強く指摘せざるをえない。

  3.  反社会的勢力関与の危険性
     非司法競売制度においては、融資時にあらかじめ債務者が競売の実行方法について合意をすることが前提となっているため、融資を受ける際の債権者と債務者との力関係に鑑みれば、債務者に合理的かつ公平な合意内容を締結することを期待することは出来ず、畢竟、債務者に不利な合意に基づいて競売の実行方法が定められる虞れがある。
     さらに、民間機関によるオークション方式が採用された場合には、競売の実行時においても裁判所の関与がなされないこととなり、担保不動産を少しでも安く手中に収めようとする者が跋扈し、暴力団をはじめとする反社会的勢力の執行手続への関与を容易にしてしまう虞れが大きい。
 近時の度重なる民事執行法等の法令改正と運用の改善の歴史は、より開かれた競売をめざし、反社会的勢力等による執行妨害を排除し、より迅速に、より多くの買受希望者が安心して入札でき、公正な価格競争ができ、より高値で売却できることを一貫して目指してきたものである。そして、競売実務に携わる司法関係者の努力により、ようやくかかる目的が達成されつつある。
 にもかかわらず、以上に指摘した問題点を抱える非司法競売手続を導入することは、これまでの司法関係者の努力を無に帰しかねないものであって到底容認できず、本会は、強く反対の意見を表明するものである。

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