会長声明

2008/06/11

少年法「改正」法成立にあたっての会長声明

2008年(平成20年)6月11日
第二東京弁護士会 会長 庭山正一郎
08(声) 6号

 本日、被害者等の審判傍聴などを認める少年法「改正」法が成立した。
 当会は、本年3月12日、会長声明を公表し、同法案には少年の健全な育成を目的とする少年法の理念(同法1条)の実現を妨げる重大な問題がある旨指摘してきた。
 同法案は、国会の審議を経て、いくつかの修正が行われた。被害者傍聴を認める場合の判断基準として「少年の健全育成を妨げるおそれがないこと」を明記したこと、被害者傍聴を許すには予め弁護士付添人の意見を聴かなければならず、少年に弁護士付添人がないときは家庭裁判所が弁護士付添人を付さなければならないとしたこと、12歳未満の少年の事件を傍聴対象事件から除外したことなどの修正は少年法の理念を被害者傍聴においても維持しようとするものである。
 しかし、そもそも少年審判は、それ自体が少年の健全育成を実践するための場であり、極めて個人的な情報を活用し少年の抱えている問題を掘り下げて関係者がそれを理解する場である。それゆえ、少年審判には少年の更生に資する人のみが参加し、裁判官が少年と向き合って、その言い分もよく聞いた上で、少年に問題を自覚させ、更生の契機を与えてきたのである。少年審判に被害者が傍聴者として参加することになれば、精神的に未成熟で社会的経験に乏しい少年は、心理的に萎縮し、率直に事実関係の説明を行ったり、心情を語ったりすることが困難となり、裁判所も極めて個人的な情報を活用することに躊躇を感じ、問題を掘り下げて少年に向き合うことが困難となって、少年審判における健全育成の実践を後退させることになる。また、弁護士付添人の選任に関して、「改正」法が、少年及び保護者がこれを必要としない旨の意思を明示したときは、被害者傍聴を認める場合であっても弁護士付添人の選任を要しないとした点については、少年及び保護者が十分に状況を理解しないままに回答を行う懸念があり、問題である。
 少年審判は、事件発生から間もない時期に開かれる。そのような時期における傍聴は、少年にとっても被害者にとっても心理的な動揺が収まっていない可能性が高く、必ずしも被害者のために有益とはいいがたい。被害者支援は、長期的かつ総合的な視点で行われるべきである。
 当会は、徹底的な議論がなされないまま拙速に被害者等の審判傍聴制度が導入されたことに遺憾の意を表するとともに、「改正」法の運用にあたり、裁判所が少年法の健全育成の理念を損なわないよう、判断基準等を厳格に運用することを強く求めるものである。

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