総会決議

2008/10/01

取調べの全過程の録画による可視化の実現を求める総会決議

2008年(平成20年)10月1日
第二東京弁護士会

決議
 当会は、国に対し、

  1.  被疑者の取調べに際しては、開始から終了までの全過程を録画しなければならないこと
  2.  取調べの全過程の録画をしなかったときには、当該被疑・起訴事実について作成された被疑者・被告人のすべての供述調書は不利益な証拠とすることはできないこと

 とする法令を早急に整備することを求めるとともに、取調べの全過程の録画(取調べの可視化)の実現のため、当会が、全力を挙げて取り組んでいくことを決議する。

理由
1 検察庁の一部事件での取調べの一部録画の実施について
(1)  最高検察庁は、2006年7月から東京地方検察庁で「裁判員裁判対象事件のうち、必要性が認められる事件につき、相当と認められる部分」の取調べの録画を始めることを発表し、一部事件で取調べの一部録画が行われている。2007年2月以降、東京地方検察庁以外の検察庁でも取調べの録画に対応できるようになっており、警察においても取調べの録画を実施することが報道されている。
 しかし、検察、警察における取調べの録画は、一部事件での取調べの一部録画に過ぎないものであり、取調べの可視化として不十分というだけでなく、検察、警察の都合のよい取調べ状況だけを録画して、密室での違法な取調べの実態を隠蔽する手段として使用される可能性がある。密室での違法な取調べを根絶するためには、全部の事件について取調べの全過程を録画する必要がある。
(2)  検察庁、警察庁は、取調べの全過程の録画による可視化について、以下のような理由で反対している。
  1.  取調べが録画されていては被疑者が真実を正直に話さない。
  2.  取調べでは、被疑者と信頼関係を築き、反省・悔悟させなければならないから、録画はすべきではない。
     しかし、取調べが録画されると、何故、被疑者は真実を正直に話さないのか、被疑者と信頼関係を築けないのか、合理的、実証的な理由はない。取調べの録画による可視化は、密室での取調べの透明性を確保し、被疑者の供述の任意性を担保するだけではなく、適法公正な取調べが行われているのであれば、取調べの適法性、公正性を明らかにすることにも資するものであり、何ら取調べの支障となるものではない。
     また、取調べの可視化に反対する意見は、密室での取調べによる供述調書を偏重するものであり、公開の法廷で直接証言、供述を聞いて有罪か無罪かを決めることを原則とする直接主義、口頭主義に反するものである。
2 捜査機関による違法、不当な取調べの実態について
 捜査機関による違法、不当な取調べの実態については、報道機関により広く報道された事件として、松本サリン事件、佐賀農協背任事件、鹿児島選挙違反事件(志布志事件)、福岡県杷木町国税還付詐欺事件、滋賀県警取調べ暴行事件、宇和島事件、佐賀北方事件、富山氷見事件があり、そのほかにも大阪府警東住吉署、山形県警山形署での取調べ時のわいせつ事件等がある。
 これらの事件は、いずれも取調室という密室において、違法、不当な人権を侵害した取調べが行われていることを社会に明らかにした。違法、不当な取調べの実態が明らかになった直後には、報道機関により違法、不当な取調べの実態と取調べの問題が広く報道され、検察、警察も謝罪会見を開き、再発防止策を表明しているが、それによって、密室における違法、不当な取調べの実態が根本的に変わってはいないことは、その後も、密室での違法、不当な取調べが繰り返されていることからも明らかである。しかも、違法な取調べの実態が明らかになった前記事件は氷山の一角に過ぎないことを忘れてはならない。密室における違法な取調べの実態を根本的に変えるためには、取調べ全過程の録画を実施し、取調べの可視化を実現する必要がある。
3 取調べの全過程の録画による可視化の効果
 取調べの全過程の録画による可視化が実施されれば、次のような効果がある。
(1)  暴行・脅迫などによる違法な取調べがなくなる。
 取調べの状況を全部録画すれば、暴行・脅迫などの違法な取調べ状況も記録されることになり、違法な取調べが行われることを抑止することができる。
(2)  取調べで被疑者が話した内容がそのまま正確に記録される。
 取調べの状況を全部録画すれば、供述調書の内容が正確かどうか後で確認することができることになるため、供述調書に被疑者の話した内容が正確に記載されるようになり、正確に記載されていないときにも相違点が容易に確認できる。
(3)  裁判で取調べ状況について判断することが容易になる。
 裁判で被告人の供述調書の任意性が問題となったときに、取調べの全過程が録画されていれば、裁判官は取調官と被告人の供述という主観的な証拠ではなく、録画による機械的、客観的証拠によって取調べ状況を正確かつ迅速に把握できることになり、任意性の判断が容易になるとともに、裁判で任意性が問題となり、取調べ状況が争われることが減少することになる。
(4)  市民が裁判に参加する裁判員裁判実施のためにも必要である。
 取調べの全過程の録画を実施し、取調べに関する審理を客観化・迅速化することは、裁判員裁判実施のためにも必要である。
4 結び
 以上に述べた理由から、取調べの全過程の録画による可視化の実現を求め、上記のとおり決議する。

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