会長声明

2009/03/13

フィリピン人一家に対する強制送還に関して慎重な対応を求める会長声明

2009年(平成21年)3月12日
第二東京弁護士会 会長 庭山正一郎
08(声) 14号

 東京入国管理局は、3月9日、退去強制処分を受けた日本生まれのフィリピン人中学1年生であるカルデロン・ノリコさんの一家が在留特別許可を求めている問題で、同日出頭した父親のアランさんを強制収容した上で、両親に対し、「13日までに3人での帰国意思あるいはノリコさんの在留意思が示されなければ、17日に家族全員を国費で強制送還する予定である」旨通知した。一家は、あくまでも一家3人での在留を求め、帰国の意思を示していない。
 わが国も1994年に批准している子どもの権利条約は、第9条において、締約国に対し、「子どもがその父母の意思に反してその父母から分離されないこと」を強く求めており、父母の意思に反しても分離が許されるのは、「権限のある当局が司法の審査に従うことを条件とし」、かつ「その分離が子どもの最善の利益のために必要である」場合に限られている。日本国政府は、同条1項について、「出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではない」と解釈する旨宣言しているが、現在の出入国管理法では退去強制させるか否か、出入国を認めるか否かは法務大臣の自由裁量とされているため、司法の審査に制約があり、第9条の求める「司法の審査」となっていない。その結果、当然配慮されるべき「子どもの最善の利益」が配慮されず、「人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべき」(前文)子どもの権利が十分保障されない事態が生じていることは誠に遺憾である。
 ノリコさんは、日本で生まれ育ち、小中学校とも日本の公立校に通い、これまでフィリピンへ行ったこともなく、フィリピンの公用語であるタガログ語も話せない。
 今回の問題に関しては、「子どもの最善の利益」に十分な配慮がなされるべきであり、「人格の完全なかつ調和のとれた発達のため」、ノリコさんが家族とともに過ごすことができ、これまで生まれ育った環境の下で学校に通い続け同世代の子どもたちと社会的関係を発展させることができる利益が尊重されなければならないことは明らかである。
 よって、当会は、わが国政府に対し、カルデロンさん一家について、強制送還を執行せず、子どもの権利条約が要請する「子どもの最善の利益」の観点から慎重な対応を行うように強く求める次第である。

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