会長声明

2009/12/08

葛飾ビラ等配布事件に関する会長声明

2009年(平成21年)12月8日
第二東京弁護士会 会長 川崎達也
09(声) 10号

 最高裁判所第二小法廷は、本年11月30日、マンション各住戸のドアポストへの政党の政治的意見を記載したビラ等の投函が住居侵入罪に当たるとした東京高等裁判所判決に対する上告を棄却する判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
 
 本判決は、「表現の自由は、民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならず」としながらも、「たとえ表現の自由の行使のためとは言っても、そこに管理組合の意思に反して立ち入ることは、本件管理組合の管理権を侵害するのみならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを得ない。」として、本件を住居侵入罪に問うことは憲法21条1項に違反しないと判示した。

 しかし、本判決においては、管理組合の管理権が表現の自由と比較してより重要な法益かどうかの考量も示されず、また、ビラ配布により私生活の平穏が揺るがせにできない程度に侵害されたか、さらに、それが居住者の受忍限度を超えたといえるかどうかの説示をも欠いたものとなっており、到底説得力があるとは言い難いものである。

 日本弁護士連合会は、本年11月6日、人権擁護大会において、裁判所に対し、「憲法の番人として市民の表現の自由に対する規制が必要最小限であるかにつき厳格に審査すること」を求める宣言を採択したところである。本判決は、結果として、その宣言を無視するものであって、まことに遺憾である。

 加えて、国際人権(自由権)規約委員会は、昨年10月、「政治活動家と公務員が、私人の郵便箱に政府に対する批判的な内容のリーフレットを配布したことで、不法侵入についての法律や国家公務員法の下で、逮捕、起訴されたという報告に懸念」を表明し、日本政府に対し、「表現の自由に対するあらゆる不合理な制限は撤廃すべきである」と勧告しているものである。裁判所は、このような国際機関の指摘にも十分耳を傾けるべきである。

 ビラ等の配布は、マスメディアを直接利用することが困難な市民にとって、また、市民が自らの意見を読み手に直接交付できるという意味において、重要かつ有効な表現方法である。そのようなビラ等の配布を規制するには、民主主義社会を支える表現の自由という価値を超えた、無視できない法益侵害の存在を認定することができなければならないものである。治安当局が過度に表現の自由を制限し、憲法の番人たる裁判所がそれを安易に追認するのであっては、市民の表現の自由全般が委縮する恐れがある。

 当会は、裁判所に対し、表現の自由が問題となる案件において、本判決のような形式的な判断に終始することなく、表現の自由の優越性を十分に考慮した判断を示すよう、要望するものである。

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