会長声明

2009/12/15

経済的事情を理由に法曹への道が閉ざされないよう求める会長声明

2009年(平成21年)12月15日
第二東京弁護士会 会長 川崎達也
09(声) 11号

 昨年秋のリーマン・ショック以降、世界的な金融危機がわが国を歴史的とも言える不況に巻き込み、貧困と格差の拡大が大きな社会問題となっている。
 文科省によると、法科大学院への志願者は、2006年の7万人超をピークとして年々減少し2009年には2万人台になり、とりわけ、社会人を含めた法学部生以外の者の志願者が急減しているとのことである。志願者減少の理由は、司法試験の合格率が当初の予想を遙かに下回る低率となっていることのほか、経済的事情により志望自体を断念した者が少なからず存在するであろうことは想像するに難くない。
 現在、法曹を志す者は、大学教育終了後、2ないし3年の法科大学院教育を受け、司法試験合格後1年の司法修習を経なければならないとされる。法科大学院の学費は、入学金として20~30万円、授業料として年間80~130万円ほどを要し、かつ、この間の生活費の支弁を考えれば、その経済的負担は相当に重い。しかも、法科大学院の奨学金制度は貸与型に限られ、その他の経済的支援は授業料の減免等各法科大学院の自助努力に委ねられ、国の援助は微々たるものに過ぎない。加えて、2010年11月1日施行の改正裁判所法は、司法修習給費制を廃止し、貸与制を実施することを予定する。しかし、それは法曹志願者を更なる経済的苦境に追い込むものとしか言いようがない。このままでは、法曹への道は富裕層にのみ許された極めて狭隘かつ偏頗なものとなる。
 法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度は、社会に生起する様々な法的問題に適切に対処できる、また、「人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性を持った」法曹を育成するべく、社会人など多様なバックボーンをもった有為な人材を法曹界に迎え入れることをも企図したものである。しかし、経済的事情のため、それらの者の多くが法曹への道を断念しているとすれば、その目的は到底達し得ない。
 わが国は、法曹養成制度として、「司法試験という『点』のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成」を実現すべく、その制度を設計し、実施しているところである。プロセスとしての法曹養成が、司法の人的基盤を確立するため不可欠のものであり、また、法曹三者がそれぞれの立場から司法の維持発展に寄与し、とりわけ、弁護士は、国選弁護、法律援助、法律相談、公益的事件の担当、また、法科大学院や司法修習の運用を担っているほか、ひまわり公設事務所や法テラススタッフ弁護士への赴任等司法アクセス保障のための活動など、司法制度改革の進展の中で、公共性・公益性を持った様々な活動を行っているものである。このような公益的責務を担う弁護士を含む法曹を適切な経済的支援のもと養成することは、国の本来的な責務というべきである。
 当会は、関係各省庁に対し、法科大学院における給付型奨学金の創設、貸与奨学金の返還免除の拡充、法科大学院の授業料減免の拡充等の経済的支援策の実施、また、司法修習給費制の廃止と貸与制の実施を内容とする裁判所法の見直し、または同法の施行を延期して給費制の維持・復活を図ることが、わが国司法の人的基盤の整備・充実のため不可欠と考え、この旨提言し要請するものである。

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