会長声明

2010/03/31

国家公務員法違反事件無罪判決に関する会長声明

2010年(平成22年)3月31日
第二東京弁護士会 会長 川崎達也
09(声)第14号

 東京高等裁判所は、3月29日、社会保険事務所職員(事件当時)が休日に政党機関紙をマンションの郵便受けに配布した行為を国家公務員法(政治的行為の禁止)に違反するとした一審の有罪判決を破棄し無罪とする判決を言い渡した。
 判決は、本件の配布行為は、その態様や国民の法意識に照らせば、行政の中立的運営及びそれに対する国民の信頼という保護法益を抽象的にも侵害するものとは考えられず、したがって、このような配布行為に罰則規定を適用することは国家公務員の政治活動の自由に対し、必要やむを得ない限度を超えた制約を加えるもので憲法21条及び31条に違反するとした。
 郵便局員が選挙用の政党ポスターを公営掲示板に掲示したこと等が国家公務員法に違反するとした猿払事件に対する1974年の最高裁大法廷判決以降、裁判所は、国家公務員の政治的行為について、公務員の職種・職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、広く刑罰をもって禁止してきた。しかし、今回の判決は、猿払事件当時と比較し、わが国において、民主主義が成熟し、国民は、民主主義を支えるものとして表現の自由がとりわけ重要な権利であるとの認識を一層深めてきているとしたうえで、裁量の余地のない本件のような職種・職務権限を有する者が、休日に勤務先やその職務と関わりなく、職場を離れた自宅周辺において、公務員であることを明らかにせず、本件のような行為を行っても、国民が行政全体の中立性に疑問を抱くようなことはないとした。さらに判決は、わが国における国家公務員の政治的行為の禁止が西欧先進国と比べ非常に広範なものになっていると指摘し、刑事罰の対象とすることの当否・範囲等を含め、再検討を求めており、猿払事件判決以降、公務員の政治活動の自由について消極的な判断を繰り返してきた裁判所の姿勢に転換を迫るものとなった。
 当会は、昨年12月、マンションでのビラ配布行為を住居侵入罪にあたると認定した最高裁判決に対し、表現の自由が問題となる案件においては、表現の自由の優越性を十分に考慮するとともに、一昨年10月の国際人権(自由権)規約委員会の我が国に対する「表現の自由に対するあらゆる不合理な制限は撤廃すべきである」旨の勧告等国際機関の指摘にも耳を傾けて判断を示すよう要望する会長声明を発したところである。
 当会は、この度の東京高裁判決が上記の会長声明の趣旨に合致するものとして、これを高く評価するとともに、最高裁判所に対し、高裁判決を踏まえた国際的にも通用する賢明な判断を示すよう求めるものである。

もどる