会長声明

2010/05/28

「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の一部改正案についての会長声明

2010年(平成22年)5月28日
第二東京弁護士会 会長 栃木敏明
10(声)第5号

 東京都知事が本年2月に都議会に提出した「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」(以下「本条例案」という。)が、6月の都議会において審議が再開されることが予想されている。本条例案は、インターネットの利用規制及び「児童ポルノ」規制の強化を主な内容とするものであるが、市民や出版界から懸念が寄せられ、継続審査となっていたものである。
 子どもがインターネット上の情報の授受により人権侵害に巻き込まれたり、「児童ポルノ」により子どもの個人の尊厳が傷つけられている事態の改善に向けた取り組みは喫緊の課題である。しかし、多様な思想や価値観が自由に授受されることは自由で民主的な社会の発展のために必要不可欠であり、そのためには表現の自由に対する公権力の干渉をできる限り排除しなければならず、かかる視点は常に堅持されなければならない。
 ところが、本条例案は、携帯電話等の端末の使用者が青少年である場合には原則としてフィルタリングサービスの利用を条件とし、また、子どものインターネット利用状況について、都知事が保護者に対し説明若しくは資料の提出を求め、又は必要な調査をすることができる旨規定している。これにより、フィルタリングの使用が事実上強制されて自由な情報の授受が不当に制限されかねず、また、家庭教育に対して公権力が介入することになるものであり、およそ賛同することができない。2008年に成立した「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」も、青少年へのインターネット規制につき、「民間における自主的かつ主体的な取組が大きな役割を担い、国及び地方公共団体はこれを尊重すること」を基本理念としているのであり(同法第3条)、本条例は、同法の理念にも反するものといわざるをえない。
 また、本条例案は、「非実在青少年」という概念を定義したうえで(漫画やアニメに登場する18歳未満と判断される架空キャラクターが想定されている)、いわゆる児童ポルノコミックの青少年(18歳未満)への販売・閲覧を禁じている。しかし、「非実在青少年」の法文上の定義は一読しただけでは理解困難であり、また、「非実在青少年」に該当するか否かの判断は規制側に委ねられているうえ、規制の対象となる行為に関しても極めて曖昧な規定となっており、出版界や漫画家らが危惧するとおり、表現の自由を著しく萎縮させるとともに、警察等の公権力からの不当な介入を招くおそれがある。
 当会は、これまでも、子どもの成長発達権(子どもの権利条約第6条)の保障の観点から子どもの人権をめぐる活動や提言を行ってきたところであるが、本条例案について、「青少年の健全育成」を目的とした子ども・保護者・インターネット事業者に対する監視や規制の観点からではなく、子どもの権利保障の観点からの十分な議論と再検討を強く求めるものである。

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