会長声明

2010/11/05

刑事司法の抜本的な改革の実現を求める会長声明

2010年(平成22年)11月5日
第二東京弁護士会 会長 栃木敏明
10(声)第9号

 昨日(11月4日)、法務大臣の下に設けられる「検察の在り方検討会議」のメンバー15名が決まり、11月10日に発足することとなった。
 本検討会議は、厚生労働省元局長事件に関して押収された証拠物の改ざんが発覚し、大阪地方検察庁特別捜査部の元主任検事が証拠隠滅罪で、また、その元上司の特捜部長・副部長が犯人隠避罪でそれぞれ逮捕起訴されたことを受けて設置されるに至ったものである。

 元局長に対する大阪地裁の無罪判決及び大阪地検特捜部の一連の事件によって明らかになったことは、「検察官が証拠物を改ざんした」という1点にとどまらない。
 大阪地裁判決は、「検察官の誘導があった可能性がある」として証人(共犯者)の供述調書のほとんどを却下したが、これは、検察官が密室の中でストーリーに合致した虚偽の供述(自白)を強要している実態を改めて端的に指摘したものに他ならない。
 また、同じく元局長の裁判において、元主任検事が取調べメモをシュレッダーで廃棄していたことが明らかになり、さらに、今般、最高検察庁が、不要な取調べメモを廃棄するよう指示する趣旨の通知を出していたことが判明した。この通知は、「取調べメモは証拠開示の対象となり、その判断権限は裁判所にある」とした最高裁決定を等閑視し、証拠物である取調べメモを廃棄するよう慫慂(しょうよう)していたとも評価しうるものである。
 このような検察の構造的な問題点は、今や市民やメディアにも広く認識を共有されるに至った。また、今回の事件は、公判証言よりも検察官調書に高い証拠価値を認める「調書裁判」やいわゆる「人質司法」を是認してきた裁判所、さらには検察庁のリークに主に依拠して事件報道をしてきたメディアにも反省を迫る契機にもなった。

 今後、起訴された3名の元検察官の刑事事件の手続も進行していくこととなる。しかし、私たちは、3名個人の刑事責任の行方だけに目を奪われてはならず、今回の事件を引き起こすことを可能とした我が国の刑事司法の在り方を抜本的に改革していかなければならない。
 最高検察庁は氷見事件及び志布志事件の反省をふまえ、「自白の裏付け捜査の徹底、自白と消極証拠を含めた負の証拠との突合吟味など、基本に忠実な捜査を遂行するべきである。」との再発防止策を既に提言していた(平成19年4月5日検事長会同における検事総長訓示)。しかし、本件は最高検自身による再発防止策がいかに実効性を伴っていないものであったかを如実に示すこととなった。
 当会は、本検討会議において、検察が無実を示す証拠があることを認識しながら逮捕起訴したのかを含め、元局長に対する捜査・公判維持の問題点の徹底的な調査と、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)及び検察官手持証拠の全面開示の立法作業に向けた議論が行われるよう強く望むものであり、その実現に向けてなお一層の取組みを行う所存である。

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