会長声明

2012/03/22

秘密保全法制定に反対する会長声明

2012年(平成24年)3月22日
第二東京弁護士会会長 澤井 英久
11(声)第11号

 2011年8月8日に「秘密保全のための法制のあり方に関する有識者会議」が発表した「秘密保全のための在り方について(報告書)」を受けて、政府は秘密保全法制の法案化作業を進めている。
 国政の重要情報は、本来国民に開示されるべきものであって、報告書の提言する秘密保全法制の内容は、以下述べるとおり、民主政の過程を支える重要な権利である国民の知る権利を侵害するおそれがあるなど、国民主権原理をはじめとする憲法上の諸原理および憲法の保障する人権と正面から衝突しかねない危険性を有するものである。

1 報告書は、政府の保有する情報の漏洩を防ぐ保全措置として、対象となる秘密を「特別秘密」と定義し、管理方法(人的管理・物的管理)を定め、漏洩行為などを処罰対象として罰則を科すものである。「特別秘密」の対象分野は、「国の安全」「外交」及び「公共の安全及び秩序の維持」の3分野とされるところ、その概念は曖昧で広範となる上、指定権者が当該情報を扱う行政機関等とされており、その恣意的判断で、本来国民に開示されるべき情報が統制・隠蔽される危険性がある。

2 また報告書では、特別秘密を取り扱わせようとする者(対象者)の管理(人的管理)として、「適性評価制度」の導入を提案する。しかしながら、同制度は、対象者のみならずその関係者に対してまで、そのプライバシー情報の調査を許容するものとなっており、人権侵害の危険性が大きい。

3 さらに、処罰対象とされる行為は、直接的な漏洩行為に留まらず、漏洩行為の未遂・共謀行為・独立教唆行為・扇動行為と広範囲に及び、「特別秘密」の定義の曖昧さと相まって、適正手続および罪刑法定主義(憲法31条)に反するおそれがある。
 加えて、取扱業務者等から特別秘密を取得する行為として、「特定取得行為」に「犯罪に至らないまでも社会通念上是認できない行為を手段とするもの」までも含め、これについても独立教唆・扇動行為・共謀行為を処罰対象としている。これによって、処罰対象はよりいっそう広範囲となり、通常の取材行為が処罰対象から外れることさえ明確となっておらず、報道機関に対する萎縮効果を招き、国民の知る権利を支える取材の自由・報道の自由を侵すものとなりかねない。

4 また秘密保全法制を侵して起訴された場合の裁判手続においては、対象となる「特別秘密」の内容が明らかにならない状態での裁判となるおそれがあり、適正な裁判を受ける権利が侵害されるおそれがある。

5 そもそも、秘密保全法制検討のきっかけとなったとされる尖閣諸島沖中国船追突映像流出は、国家秘密の流出とは到底言えない事案であり、立法の必要性を欠くと言うべきであるし、仮に守るべき国家情報があったとしても、国家公務員法等現行の法制度で十分に対応が可能であり、新たな保全法制が必要とされる立法事実はない。

 このように重大な憲法上の疑義がある秘密保全法制の制定には反対であり、政府が国会に法案を提出しないよう求める。

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