会長談話

2009/05/27

足利事件に関する会長談話

2009年(平成21年)5月27日
第二東京弁護士会 会長 川崎達也

 2009年5月8日、東京高等裁判所は、当会会員が中心になって取り組んで来た足利事件について、同裁判所が2名の鑑定人に命じて実施したDNA再鑑定書を検察側及び弁護人側に交付した。再鑑定の結果は、検察側推薦の鑑定人によるものも弁護側推薦の鑑定人によるものも、下着の精液痕に由来するDNA型と、同事件の受刑者である菅家利和氏のDNA型とは一致しないというものであった。
 これらは菅家氏が犯人でないことを端的に示す証拠である。当会は、菅家氏の即時釈放と直ちに再審開始決定がなされることを強く求めるものである。

 足利事件は、現場に残留された体液等のDNAを手がかりにして犯人を特定する捜査手法を広く世間に知らせるきっかけとなった事件であった。当時DNA鑑定による犯人の特定は万能無謬のものであるかのように喧伝され、最高裁判所もその証拠能力を認めたことは我々の記憶に新しいところである。
 今回の鑑定結果は、ある時代において先端の科学技術を駆使した捜査手法であっても、それを検証する姿勢が科学的でなければ却ってえん罪の原因になることを明らかにした点で示唆的である。
 今後証拠を科学的に分析する手法はより一層高度なものになるであろう。しかし、後により正確な科学的分析が可能となった場合に備え、その証拠を残しておくこと、また、被告人の要望があれば再鑑定の機会が与えられることが制度として確立されるべきである。

 足利事件はまた、他の幾多のえん罪事件同様、密室で強要された自白が証拠にされた事件でもある。えん罪の防止のためには取り調べの全面可視化が不可欠であるとの当会の主張の正しさが改めて証明されたものといえる。当会は自白を強要した捜査機関に猛省を促すとともに、捜査機関に対しては取り調べの全面可視化の実施を、裁判所に対しては可視化の措置が講じられずに作成された供述調書を安易に採用しないことを、強く求めるものである。

 当会は、たゆまぬ努力で再審を闘ってきた菅家氏とその弁護団に敬意を表するとともに、今後ともえん罪防止に一層の努力を続けて行く決意である。

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