国旗国歌の強制の問題に関わる教科書採択への介入に反対する会長声明

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更新日:2013年08月23日

2013年(平成25年)8月23日
第二東京弁護士会会長 山岸 良太
13(声)第5号

 東京都教育委員会は、本年6月27日、「平成26年度使用都立学校(都立中等教育学校の後期課程及び都立特別支援学校の高等部を含む。)用教科書についての見解」(以下、「見解」という。)を示した。「見解」は、実教出版株式会社の「高校日本史A」及び「高校日本史B」に、国旗掲揚・国歌斉唱について、「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」という記述が存し、それが、入学式、卒業式等における国旗掲揚・国歌斉唱の指導についての東京都教育委員会の考え方と異なるものであるとして、上記教科書を都立高等学校において使用することは適切ではないとし、「この見解を都立高等学校等に十分周知していく」とした。また、大阪府及び神奈川県の教育委員会においても、類似の見解や要請等が示されていると報道されている。
 東京都ではこれまでに、公立学校の入学式・卒業式等の国歌斉唱時に起立を命じる職務命令に違反した教職員に対し、延べ400件を超える懲戒処分が出されている。当弁護士会はこれまで、教職員に対して懲戒処分を背景に国歌斉唱時の起立斉唱を強制することは、教職員の思想良心の自由を侵害するとともに、間接的に児童生徒の思想良心の自由な形成を侵害するおそれがあることから、かかる強制をしないことを東京都教育委員会に求める声明を繰り返し発してきた。今回示された東京都教育委員会の「見解」は、教職員に国旗掲揚・国歌斉唱等が強制されている実態を容認するものであり、到底認められない。
 旭川学テ事件最高裁大法廷判決(1976年5月21日刑集30巻5号615頁)は、「教育内容に対する...国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請されるし...子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入...は、憲法26条、13条の規定上からも許されない」と判示している。また教育基本法16条1項は、教育に対する不当な支配を禁止している。日本弁護士連合会も、2012年10月5日付人権擁護大会の決議において、教育への不当な支配・介入の禁止等の原則が遵守されるべきことを確認したところである。東京都教育委員会が、国旗掲揚・国歌斉唱について「公務員への強制の動きがある」とする記述があることを理由に、上記教科書の使用を妨げることは、教育内容への不当な政治的介入をするものである。
 ことに、高等学校で使用する教科書は、教科用図書の無償措置に関する措置の適用をうけないので、その採択は、高等学校等の教育課程の目標に応じて、これまで各校ごとに独自になされてきたところである。その教科書の採択に当たっては、教師の専門性に基づく各学校の自主性が尊重されるべきである。
 当弁護士会は、東京都教育委員会に対し、上記「見解」を撤回することを求めるとともに、各都道府県の教育委員会に対し、入学式・卒業式等において教職員、児童生徒に対し国旗掲揚・国歌斉唱等を強制しないこと、及び国旗掲揚・国歌斉唱等の強制の問題に関し、教科書の採択への不当な介入をしないことを求めるものである。

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