日米防衛協力のための指針の改定合意と安全保障法制の立法に反対する会長声明

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更新日:2015年05月19日

2015年(平成27年)5月19日
第二東京弁護士会 会長 三宅 弘
15(声)第2号

 日米安全保障協議委員会は、本年4月27日、新たな日米防衛協力のための指針(以下「新ガイドライン」という。)に合意した。この新ガイドラインは、1997年のガイドラインを改定したものであるが、集団的自衛権行使を容認した2014年7月1日の閣議決定(以下「本閣議決定」という。)をふまえたものとなっている。
 また、本年5月15日、政府は、自衛隊法、武力攻撃事態対処法、周辺事態法、国際平和維持活動協力法等の10の法律の改変と、国際平和支援法の新法制定という、全部で11の安全保障法制に関する法案(以下あわせて「本法案」という。)を国会に提出した。本法案は、本閣議決定や新ガイドラインを受けて、国内法制度として整備するものである。

 新ガイドラインは、平時から緊急事態までのあらゆる状況に対応する「切れ目のない」日米の軍事的協力に合意し、宇宙からサイバー空間にまで及んで、アジア・太平洋地域及びこれを超えた全世界に及ぶ日米同盟を形成するものであり、これまでの日本及び極東の平和と安全の維持を主眼とした日米同盟を、本質的に転換するものである。すなわち、新ガイドラインは、米国または第三国への武力攻撃に対処するため、日米両国が当該武力攻撃の対処行動を取っている他国と協力することを取り決め、集団的自衛権については、自衛隊が、機雷掃海、艦船防護のための護衛作戦、敵に支援を行う船舶活動の阻止、後方支援を行うことなどを具体的に定めた。
 また、これまでの「周辺事態」を越えて「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)に対応し、アジア・太平洋地域を越えて全世界的に平和と安全確保に対応すべく、自衛隊が米軍と実行可能な限り最大限協力し、後方支援を行うことなどを定めているが、交渉の過程は、日本国民にも詳しくは知らされては来なかったし、特定秘密保護法が適用されると、今後も知らされない状況が続くことが予想される。

 「専守防衛」であるがゆえに自衛隊は合憲とされてきたが、本法案は、限定的とはいえ日本を「海外で武力行使ができる国」に変えるものである。自衛隊法に関しては、武力攻撃に至らない侵害への対処等として、米国その他の国の軍隊の武器等の防護を自衛官の権限として認めており、現場の判断により戦闘行為に発展しかねない危険を飛躍的に高めている。その危険性は、新たに自衛隊の任務とされた在外邦人救出等の活動についても同様である。
 武力攻撃事態対処法では、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態を「存立危機事態」と定め、自衛隊による「武力の行使」を地理的限定はなく世界のどこででも許容している。周辺事態法は重要影響事態法とされ、「我が国周辺の地域」の文言を削除し、「我が国の平和と安全に重大な影響を与える事態」を「重要影響事態」と定めたうえで、その事態が生じた場合、世界のどの地域においても、米国や他国の軍隊をも支援することとし、さらに、後方支援地域の制限を撤廃し、現に戦闘行為が行われている現場でなければ、地理的限定なくどこでも弾薬の提供などの支援を可能としている。これらの「事態」は二義を許さない明確なものではないうえ、これでは、従来禁止されてきた他国との武力行使の一体化は避けられず、日本は「海外で武力行使ができる国」になってしまう。
 国際平和維持活動協力法(PKO協力法)では、国連が統括する国際平和維持活動に加えて、有志連合等が行う停戦監視など国連が統括しない活動も可能とし、従来は危険の故に禁止されてきた駆けつけ警護や、その任務遂行のための武器使用も認めている。自衛隊員は殺傷の現場にさらされ、こうした戦闘行為から武力の行使に発展する危険性も極めて高い。
 新法である国際平和支援法は、国際社会の平和と安全を脅かす「国際平和共同対処事態」が生じた場合に、自衛隊を海外に派遣し、米国や他国の軍隊に対して、現に戦闘行為が行われていなければ、地理的限定なくどこでも弾薬の提供などの支援を可能とし、ここでも従来禁止されてきた他国との武力行使の一体化は避けられない。

 そもそも日本国憲法は、前文で全世界の国民が平和のうちに生存する権利を確認し、第9条で国際紛争を解決する手段として、国権の発動たる戦争と武力の行使を永久に放棄する恒久平和主義を明示している。いかなる法律も政策もこれに反することは許されない。集団的自衛権の行使はもちろん、米国や他国の軍隊の戦争を後方支援するために自衛隊を派遣するなど到底認められることではないと解釈されてきたはずである。新ガイドラインは明らかに日米安全保障条約の範囲すら超え、新ガイドラインと安全保障法制の改変は、恒久平和主義に違反するものである。また、このような憲法違反の武力の行使等を、特定秘密保護法によって情報の自由な流通を制約したうえで、政府間合意のみで可能にすることは、憲法が個人の権利・自由を確保するために国家権力を制限するという立憲主義(憲法主義)にも違反する。
 加えて、新ガイドラインは、特定秘密保護法によって情報の自由な流通を制約したうえで政府間で合意し、その後に国会に提出された安全保障法制の改変を先取りし、既成事実化するものであり、手続的にも国民主権と民主主義に著しく反する。アメリカ議会で具体的法案成立を宣明する前に、国民に十分な経過説明があるべきであり、このようなやり方は国民不在、国会軽視と批判されてもいたしかたない。
 当弁護士会は、立憲主義(憲法主義)の原則を遵守する立場から、これまでも集団的自衛権の行使容認を認めることに反対して2013年7月、2014年5月、2014年7月と3度の会長声明を発してきた。戦争は、最大の人権侵害である。弁護士法第1条にあるとおり、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命として、当弁護士会は、今後も憲法の尊重擁護に取り組み、本閣議決定の具体化されている新ガイドラインと安全保障法制の改変に強く異議を唱えて、恒久平和主義、立憲主義、国民主権、民主主義を守り抜く活動に引き続き取り組む所存である。

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