「公害紛争処理制度の見直しについての提言」に関する会長声明

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更新日:2015年06月25日

2015年(平成27年)6月25日
第二東京弁護士会会長 三宅 弘
15(声)第6号

 行政型ADR(裁判外紛争解決処理制度)の一つである公害紛争処理法に基づく公害紛争処理制度は、制定から約45年が経過した。この間、紛争の特色には変容がみられるものの本制度が抜本的に改正されたことはなかった。公害等調整委員会(国家行政組織法3条2項に基づく総務省の外局。以下「公調委」という。)は、2014年秋、「公害紛争処理制度に関する懇談会」を設け、政府方針である地方分権および手続の電子化の促進ならびに制度の現代的課題等について半年間検討を行った。公調委がこのような公開の議論をしたこと自体がはじめてのことであり、現在、制度改正の機運が高まっている。
 同懇談会の検討結果は、2015年6月1日に報告書として公調委から発表された。その中で、本制度が対象とする紛争の範囲や公害の定義等、本質的な部分にも議論が及び、制度と運用の溝を埋めるための立法手当が望まれる旨の意見も出されている。
 本制度は市民生活に直結するものの、これまで世間の注目は低く、長きにわたりほとんど改善はなされずにきた。今回、報告書は出されたものの、実際に制度改正にまで着手されるかどうかは、これまでの経緯に照らせばなお予断を許さない。そこで当弁護士会は、制度改正の動きを強く後押しすべく、この機会を逃さずに、特に制度利用者である市民の利用しやすさをまずは向上させる観点から、以下の要旨の「公害紛争処理制度の見直しについての提言」を行うこととした。
 第1に、公害紛争処理法のもと、公調委等が取り扱う紛争の対象範囲を、現行の「公害」から環境に係る被害またはそのおそれ全般へと拡げるべきである。この「環境に係る被害またはそのおそれ」には、(1)公害、(2)公害類似の被害、すなわち現行の公害の定義から、①「相当の範囲」の広がりがあること、②「典型7公害」であること、という2つの要件を外した被害で公害以外のもの、並びに(3)(1)及び(2)以外の被害またはそのおそれのうち、人間の健康で文化的な生活に対する環境上の被害またはそのおそれ、または生態系の破壊またはそのおそれ、を含めるべきである。
 第2に、法令や機関の名称を市民にとって馴染のある名称に変更し、利用を促進すべきである。たとえば、「公害紛争処理法」は「環境紛争解決法」へ、「公害等調整委員会」は「環境紛争等調整委員会」と改めることが考えられる。
 これらを実現することにより、今日の環境問題がより幅広く効果的に解決され、市民による制度利用が促進されることで、環境保全および人権擁護の充実が図られることを期待する。

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