労働基準法改正案に対する会長声明

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更新日:2015年07月01日

2015年(平成27年)7月1日
第二東京弁護士会 会長 三宅 弘
15(声)第8号

 内閣は、2015(平成27)年4月3日、「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下、「改正案」という。)を、今通常国会に上程した。改正案では、「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」が創設され、高度専門知識を要する業務において、年収が平均給与額の3倍の額を相当程度上回る等の要件を満たす労働者については、労基法で定める労働時間規制並びに時間外、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しないものとされている。

 高度プロフェッショナル制度創設の目的としては、2015年2月13日付厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会の報告書によれば、労働時間ではなく成果で評価される高度な専門能力を有する労働者が、意欲や能力を十分に発揮できるようにしていくことにあるとされている。また、経済界は国際間の競争の激化や労働者の働き方の変化に鑑み、このような制度創設の必要性が高いとしている。

 ただ、高度プロフェッショナル制度は上記1のとおり、現在管理監督者についても適用されている深夜労働規制も含め、労基法のあらゆる労働時間規制を適用しないとするものであるから、適用対象労働者が高年収で高度の専門的知識を有しているとはいえ、使用者の指揮命令の下に働かなければならない以上、長時間労働を課されて、当該労働者の生活や健康を損ないかねない懸念がある。

 改正案は、長時間労働の抑制という観点から、同制度の導入要件として、改正案第41条の2第4号では、次のいずれかに該当する措置を労使委員会の決議及び就業規則等で定めることを要求している(選択的要件)。  イ 労働者ごとに始業から24時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第37条第4項に規定する時刻の間(注:午後10時~午前5時の深夜帯)において労働させる回数を1箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。  ロ 健康管理時間を1箇月又は3箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。  ハ 1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を確保すること。

 しかし、上記ハについては、そもそも一日8時間一週40時間規制や深夜労働規制が適用されないうえに、労基法第35条第1項が定める週休制さえ適用されない。そして、年間104日とは年間の土曜・日曜の総日数程度でしかなく、かつ4週間に4日の休日さえ確保すれば足りるとするのは、同制度導入のための健康確保措置としてはきわめて不十分である。また、より実効性のある長時間労働の抑制策が求められる同制度の導入要件として、イ、ロ及びハが単なる「選択的要件」とされていることは不十分・不適当であると言わざるを得ない。

 そこで当弁護士会は、改正案のうち特に高度プロフェッショナル制度を創設する場合には、改正案第41条の2第4号につき選択的要件であるところを改め、上記イ、ロ及びハすべてか少なくとも二つを満たすなど、より実効的な長時間労働抑制策ないし健康確保措置を要件として定めることを強く求めるものである。十分な労働者の健康確保措置を導入要件とするよう国会での慎重な審議を求めるものである。

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