特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書

LINEで送る
更新日:2015年07月17日

消費者庁
内閣府特命担当大臣
山口 俊一 様
内閣府
消費者委員会事務局 御中

第二東京弁護士会
会長 三 宅  弘

はじめに

 訪問や電話による不招請勧誘の不意打ち的な販売行為による消費者被害が後を絶たない。
 全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)に登録された相談件数は、訪問販売全体では近年減少傾向にあるが、家庭訪販については増加傾向にあり、電話勧誘販売についても増加傾向にある(内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会(第4回)における消費者庁からの配布資料「訪問販売・電話勧誘販売等の勧誘に関する問題についての検討」)。
 また、近時の調査によれば、消費者の96%以上が訪問勧誘、電話勧誘を「全く受けたくない」と回答している状況にある(消費者庁平成27年5月「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査」)。
 このような状況の中、内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会において、事前拒否者への勧誘禁止制度を特定商取引法に導入すべきか否かについて、本年8月の取り纏めに向けた議論が、急ピッチで進められている。
 そこで、当会は本意見書において、事前拒否者への勧誘禁止制度の導入について、以下のとおり、意見を述べる。

第1 意見の趣旨

 特定商取引法を改正し、事前拒否者への電話勧誘販売を禁止する制度(いわゆる「Do-Not-Call制度」。)、及び、事前拒否者への訪問販売を禁止する制度(いわゆる「Do-Not-Knock制度」。)を設けるべきである。

第2 意見の理由

1 概要

(1) 不招請勧誘の問題性
 消費者の要請なしに行われる不招請勧誘は、私生活の平穏を害し、消費者にとってそれ自体が迷惑である。また、勧誘が不意打ち的で一方的になりがちであることから、事業者と消費者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差(消費者基本法第1条、消費者契約法第1条各参照)のもとで、消費者が不本意な契約を締結させられることも少なくない。電話・訪問による勧誘は、消費者が応答を余儀なくされるリアルタイム型(即時型)の勧誘であることから、その傾向がより顕著となる。それゆえに不当・不正な契約にもつながり、悪質商法の温床ともなりやすい。
 実際のところ、消費者が当該取引や商品に関する知識・経験を十分に持ち合わせず、取引をしようとする意向を持ち合わせていない状況において、顧客が要請していないにもかかわらず事業者側からの不意打ち性を帯びた勧誘や執拗な勧誘が行われた結果、顧客が本来の意図に反して取引を行い、多くの被害が発生しているという実態がある。
 高齢化社会の中で、電話・訪問による高齢者の消費者被害・トラブルが増加しており、高齢者の消費者被害の予防・救済の観点からも、不招請勧誘について適切な規制が求められる。

(2)規制のあり方について
 他方、勧誘規制については、営業の自由などにも適切な配意を要する。
 そこで、営業の自由などに配意しつつ、電話・訪問による消費者被害を可及的に防止する施策として、個人の生活の平穏と勧誘を受けるか否かについての自己決定権の尊重の観点から、一般の商品やサービスの勧誘について、事前拒否者への電話勧誘の禁止、及び、事前拒否者への訪問勧誘の禁止を導入すべきである。(なお、商品先物取引などの投資取引については、事前拒否者への勧誘規制でなく、不招請勧誘の禁止(後述のオプトイン規制)が設けられるべきである。)

2 電話勧誘拒否登録制度及び訪問勧誘拒否制度の導入

(1) 電話勧誘拒否登録制度(Do-Not-Call 制度)及び訪問勧誘拒否制度(Do-Not-Knock 制度)の意義について
 電話勧誘拒否登録制度(Do-Not-Call 制度)は、電話勧誘を受けたくない者がその電話番号の登録を行い、これをリスト化し、登録された番号への電話勧誘を法的に禁止する制度である。具体的制度としては、拒否者リストを事業者に提供して事業者がリストと対照する「リスト開示方式」(アメリカ、イギリス)と、事業者が勧誘対象者リストを登録機関に送信し拒否者を削除したリストが事業者に返信される「保有リスト洗浄方式」(オーストラリア、シンガポール、韓国)がある。
 また、訪問勧誘拒否制度(Do-Not-Knock 制度)は、訪問勧誘を受けたくない者が、戸口等に「訪問販売お断りステッカー」などで、勧誘を拒絶する表示をし、その表示のあった住居等への勧誘を法的に禁止するものである(登録制度を採用する例もある。)。
 これらの制度は、後述するオプトアウト規制を基礎としつつも、事前に包括的な拒絶の意思の表示を認めることで、希望しない勧誘を未然に防ぐことを可能にするものである。
 海外では、電話による勧誘については、具体的な名称等は異なるものの、アメリカ合衆国、アルゼンチン、イギリス、イタリア、インド、オーストラリア、オランダ、カナダ、韓国、シンガポール、スペイン、ノルウェー、ブラジル(州)、ベルギーなど数多くの国が、電話勧誘拒否登録の制度を既に導入している(フランスは、法改正を終え、現在導入に向けての準備を進めている。なお、ドイツ・オーストリアはオプトイン規制を採用する。)。
 訪問による勧誘についても、オーストラリア、アメリカ合衆国(地方自治体)などで、事前の拒絶の表示を無視した勧誘を禁止し、違反した場合には行政処分・罰則の対象としているところである。

(2) トラブル・相談の現状 ① 電話勧誘をめぐるトラブル
 近年、不招請勧誘の中でも電話による勧誘は、投資用マンション、電気通信サービス、金融商品、健康食品など、様々な商品・役務に関するトラブル・苦情を招き、大きな問題となってきている。
 全国の消費生活相談センター等に寄せられた電話勧誘販売に関する相談件数は、2013年度は10万1945件であり、全相談件数に占める割合は10.9%である。電話勧誘販売に関する相談は、2008年度までは減少傾向にあったものの、その後大幅に増加しており、2013年度は、2003年度と比較し、相談件数で約1.2倍、割合では2倍以上となっている。主な相談内容では、販売方法及び契約・解約をめぐるものが多く、特に販売方法に関するものの割合が高い。しかも、70歳以上の者が当事者である相談の増加が顕著であり、その割合も非常に高い。投資勧誘などでは被害額も大きくなっている。
② 訪問販売をめぐるトラブル
 訪問による勧誘では、消火器や浄水器の販売、リフォーム工事、新聞の定期購読、生鮮食品販売などは古くから問題となっているが、近年では、ファンド型投資商品の勧誘などでも深刻な被害を生じさせている。
 全国の消費生活相談センター等に寄せられた訪問販売に関する相談件数は、2013年度(平成25年度)には9万529件であり、全相談件数に占める割合は9.7%である。
 訪問販売に関する相談も、2008年度までは減少傾向にあったが、その後相談件数も横ばい状態が続いている。
 主な相談内容では、販売方法及び契約・解約をめぐるものが多く、訪問販売においても、70歳以上の者が当事者である相談の割合が高い。投資勧誘などでは被害の額が大きい。

(3) 現行法上の規制の不十分性
 この点、不招請の勧誘に関する規制には、招請・同意のない勧誘を禁ずるオプトイン規制(不招請勧誘の禁止)と、拒絶後の勧誘を禁ずるオプトアウト規制(事前拒否者への勧誘禁止)の2種のものがある。迷惑を防止し、悪質商法を予防するという点においては、オプトイン規制の方がより効果的であるが、商品・役務の特性などといった取引の性質を問わず広く適用される、電話・訪問による勧誘を規制している特定商取引法では、オプトイン規制は訪問購入以外では採用されておらず、またオプトアウト規制としても極めて不十分である。訪問販売について同法第3条の2第1項は、勧誘受諾意思の確認を求めているが、訪問事態を防ぐことはできないし、電話勧誘販売についても電話事態を防ぐことはできない。また、訪問販売について第3条の2第2項、電話勧誘販売について同法第17条が、契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘を禁止しているが、特定商取引法第3条の2第2項の解釈においては、消費者庁等が「訪問販売お断りステッカー」の掲示は契約を締結しない旨の意思の表示には該当しないとの解釈を示しており(「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針―再勧誘禁止規定に関する指針―」)、電話勧誘販売については、事前に勧誘を拒否するための適切な仕組みがそもそも存在しない。それゆえ、これら特定商取引法の規定では、訪問販売・電話勧誘販売を希望しない者があらかじめ勧誘を防ぐことができない。
 現行法のあり方は、生活の平穏を求める国民意識にも適合していない。特に、一旦問題業者と接触をもってしまうと、判断力や対応力が低下した高齢者が、勧誘を断れない状況に追い込まれてしまうなどの実情が存することに鑑みると、現行法上の規制は高齢化社会に適応したものとはいいがたい。

(4) 早期導入の必要性 ① 電話勧誘拒否登録制度
 前述のとおり、近年、不招請勧誘の中でも特に電話による勧誘をめぐるトラブル・相談が増加し、深刻な被害が生じている状況に鑑み、電話勧誘拒否登録制度(Do-Not-Call 制度)の早期の導入に向けた具体的な検討が必要である。しかし、我が国における制度の導入に関する議論はようやく始まったばかりであり、多くの国や地域で電話勧誘拒否登録制度が既に導入されていることに鑑みれば、我が国の対応の遅れは否めない状況にある。
 2014年(平成26年)8月15日に、消費者庁が「『消費者行政レビュー』中間とりまとめ」において、電話勧誘拒否登録制度の調査を開始することを公表したところであるが、電話勧誘を受けたくない者がその電話番号の登録を行い、これをリスト化し、登録された番号への電話勧誘を法的に禁止するなどの制度を速やかに導入するための施策を講じるべきである。
 そして、導入にあたっては、「保有リスト洗浄方式」を基本とすべきである。
② 訪問勧誘拒否制度
 前述の訪問販売によるトラブル・相談の現状、特に高齢者を当事者とするトラブル・相談の割合の増加に鑑みると、我が国においても、訪問勧誘拒否制度(Do-Not-Knock 制度)の導入が必要である。
 この点、消費生活条例等において、事前に示された勧誘拒絶の意思を無視して勧誘することを「不当な取引方法」として禁止する地方自治体も少なくない。このような自治体の取組は、不招請勧誘に対する対策として非常に有益なものであるが、違反への対応が指導・勧告及び公表に限定されている点で限界もある。
 そこで特定商取引法第3条の2第2項については、上記運用指針の改定にとどまらず法改正により、訪問販売お断りステッカーの掲示など訪問勧誘拒絶の表示をした者に対する訪問及び勧誘を禁止する明文の規定を置くなどして、訪問販売の事前拒否に明確な法的根拠を与え、これを無視して勧誘することを禁止する訪問勧誘拒否制度を、速やかに導入するための施策を講じるべきである。
③ 電話勧誘拒否登録制度及び訪問勧誘拒否制度が導入されれば、電話あるいは訪問による勧誘を受けたくない者は、拒絶の意思を登録・表示することによって、あらかじめ望まない勧誘を受けずに済むことができ、仮に電話・訪問による勧誘がなされたとしても、登録・表示を無視してあえて勧誘してくる事業者を「悪質業者」と捉えることが可能となり、そこから先の接触を断ることが可能となる。その意味で、電話勧誘拒否登録制度及び訪問勧誘拒否制度は、近時多数多額の被害を引き起こしている詐欺業者からも消費者を守るものになり得るものである。両制度の導入は喫緊の課題である。
 そして、制度導入後は、制度の周知を適切な形ではかる必要がある。

3 結び

以上のとおり、当会は、訪問や電話を用いた不招請勧誘による消費者被害の根絶を図るため、政府に対し、
(1) 海外で広く実施されている電話勧誘拒否登録制度(Do-Not-Call制度)を速やかに導入するための施策を講じること、
(2) 「訪問販売お断りステッカー」など訪問販売の事前拒否に明確な法的根拠を与え、 これを無視して勧誘することを禁止する訪問勧誘拒否制度(Do-Not-Knock 制度)を速やかに実現するための施策を講じること、
を求める。

もどる