安保関連法案の国会審議中に戦後70年を迎えての会長声明

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更新日:2015年08月14日

2015年(平成27年)8月15日
第二東京弁護士会 会長  三宅 弘
15(声)第10号

 本日、戦後70年を迎えました。我が国ではポツダム宣言を受諾し敗戦したことを「終戦」と呼ぶことで、戦後が始まりました。遡りますと、1853年に開国を余儀なくされた我が国は、その後数十年、西欧列強による支配を防ぐためとして激動の歴史を経て、19世紀後半に大日本帝国憲法(1889年)を制定し近代国家の骨格を形成しました。この憲法は、当時のドイツの強い影響を受けましたが、わが国の固有の伝統的法秩序にも潤色されたものであったといわれています。そのため、大正デモクラシーを経たにもかかわらず、昭和初期に軍部官僚などの台頭を許し、国策を誤り、とりわけ関東軍によって周到に準備された1931年の満州事変以降、近隣諸国に対する植民地支配と侵略により、甚大な犠牲と苦難を強いることとなりました。アジア・太平洋戦争において、約310万人の日本人の犠牲者を出し、アジアの諸国民には、その数倍、約2000万人に及ぶほどの戦争犠牲者を出したといわれています。
 このような凄惨な結果を前にして、二度と戦争はするまいという固い決意に基づいて、「国民主権」「基本的人権の尊重」「恒久平和主義」を基本原理とする日本国憲法を制定したのです。天皇主権から国民主権へと移行して、自らの意思で国のあり方を定めることとし、人が生まれながらにして、人たるが故に権利を持ち、それをお互いが認め合って尊重することを確認し、二度と戦争をしないことを世界に宣言したのです。国民を恐怖に駆り立てた治安維持法、国防保安法、軍機保護法なども廃止されました。女性の参政権も認められました。「異質の理解と寛容」を理念とするなどの平和教育も実施されました。
 それから70年。この国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義の3原則を守って、自衛のための実力保持に止めて他国の脅威となることなく、集団的自衛権行使の要請を受けてベトナム戦争などに自衛隊を派遣することもなく、戦争で国民が人を殺すこともない状態を維持してきました。世界の各地で医療や生活支援などのボランティアに赴いた人たちは、どこででも「平和の国日本から来た」と歓迎されてきました。この「平和ブランド」は、各国で高く評価され、日本国憲法が世界で受け入れられてきたことを物語っています。
 しかし、2013年12月の秘密保護法の強行採決、昨年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定、本年4月の日米防衛協力のための指針の改定合意、7月の安保関連法案の衆議院での強行採決と続いています。従前政府の解釈でも憲法違反だとされていたものを閣議決定で憲法違反でないと解釈変更し、日米の政府間協議で他国への武力行使を容認する合意をし、ついに「専守防衛」から「重要影響事態」「存立危機事態」などという政府によって「必要性」が認定されれば自衛隊を派遣できる法制に組み替えられようとしています。戦闘地域でなければ、他国の軍隊への様々な弾薬や燃料の補給も可能だということにされようとしています。これではその他国が実際に第三国との間で交戦状態に入ったときには、これを後方支援しているという理由で、第三国との関係において日本が「敵国」になります。交戦権を否認した憲法の規定に明らかに反する事態が生じかねないのです。しかも、「敵国人」として攻撃やテロの対象にされる危険性も生じます。平和の中でこそ諸外国での活動も満足にできるのですが、70年もかけて先人が築いてきた「平和ブランド」をこのように手放して良いものでしょうか。法の命としての論理一貫性と明晰性を欠くが故に、圧倒的多数の憲法学者や、元内閣法制局長官までが、安保関連法案が違憲であると述べているのです。
 このような法制を推進する理由に「国際環境の悪化」「国際平和への貢献」が挙げられていますが、国際環境を悪化させない平和外交こそが政治の役割です。少なくとも的確な説明も十分な議論もなく、国会の強行採決を重ねて「戦争できる国造り」に邁進するやり方は、何よりも憲法で権力行使を制限することで国民の自由や人権を護るという立憲主義の基本理念に反します。秘密保護法が戦前の治安維持法などのように運用されるとすれば、また閣議決定での憲法解釈を変更しての安保関連法案がこのまま成立するのであれば、この国は、70年前に平和を願い、日本国憲法を制定した道とは異なる方向に進み始めるのではないでしょうか。
 主権者として私たち国民がこの国をどのような国にしたいのかが問われています。女性の参政権も定着し男女共同参画が謳われ、来年の参議院選挙からは18歳から投票できるようになります。基本的人権の尊重として、表現の自由や知る権利も保障されています。法教育などを通じて、平和や人権保障を学ぶこともできます。
 戦後70年の今日、内外のすべての戦争犠牲者に哀悼の意を表するとともに、戦後を戦前にしないために、若い人々はどのように進むべきか、子育て中の親はわが子に何を託すのか、このようなことも考えながら、日本国憲法を今一度読み直し、その意義を振り返る日としたいと存じます。

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