表現の自由の侵害となり得る放送法第4条を根拠とした行政指導や処分を行わないよう求める会長声明

LINEで送る
更新日:2016年02月26日

2016年(平成28年)2月26日
第二東京弁護士会 会長 三宅 弘
15(声)第23号

 高市早苗総務大臣は、2016年(平成28年)2月8日の衆議院予算委員会で、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法第4条違反を理由に、電波法第76条に基づいて電波停止を命じる可能性に言及し、「行政指導しても全く改善されず、公共の電波を使って繰り返される場合、それに対して何の対応もしないと約束するわけにいかない」と述べた。
 しかし、このような発言は、放送法の誤った解釈に基づくものであるとともに、憲法第21条第1項によって保障された報道の自由を萎縮させ、国民の知る権利を侵害することにつながるものであり、看過できない。
 そもそも憲法第21条は、「一切の表現の自由」を規定しているところ、国民の「知る権利」と、それに資するための報道機関の「報道の自由」も、表現の自由の具体的権利として認められるものである。表現の自由は、民主政の維持にとって重大かつ不可欠な権利として保持されなければならない。
 これを受けて、放送法は、目的規定の第1条で放送の自律や表現の自由の確保を原則に掲げている。また、第3条では、何人からも干渉され、又は規律されることがないと規定し、放送における番組編集の自律・自由を明文化している。これは、放送事業者に対して、自律の機会を保障することによって、放送法第1条が規定する目的を達成することが、憲法第21条第1項の保障する表現の自由を確保することになるとの考えによるものである。それゆえ、例外的に、番組編集の自由に対する法律に基づく制約がある場合であっても、これは精神的自由の優越的地位を占める表現の自由に対する、内在的制約に限られるため、極めて厳格に解すべきであり、かかる制約は第一義的には放送事業者の自律によるものと解すべきである。そのような前提のもとで、放送法第4条はあくまで、放送事業者の番組編集基準の一つとして「政治的に公平であること」を挙げている。
 先に述べた表現の自由の保障に基づく放送法全体の趣旨からすれば、放送法第4条は、政府の言うような放送内容への規制規範ではなく、放送事業者の自律的な倫理規定に過ぎないことは明らかである。
 また、そもそも、「政治的公平」は、数値化、客観化できるものではない。あいまいな文言をもとに、放送事業者の自律的判断にゆだねることなく、番組内容が適切かどうか、さらには電波停止の是非までを政府が判断することになれば、恣意的な判断がされる危険性は避けられない。それゆえ、第一義的には、「政治的公平」の判断は、放送倫理・番組向上機構(BPO)における放送倫理検証委員会、放送人権委員会等の諸活動にゆだねられているのである。
 表現の自由は民主政の維持にとって重大かつ不可欠な権利として保持されなければならないものである。放送事業者の監督行政庁である総務大臣が、放送事業者の自主的判断にゆだねることなく、誤った解釈により、行政指導をし、あまつさえ違反の場合の制裁として放送事業者の命脈を止めるに等しい電波停止の可能性にまで言及することは、放送局の自由な報道を阻害し、重大な萎縮効果を及ぼす可能性がある。
 報道の役割の一端は、権力を監視することにある。放送事業者であると同時に、報道機関でもある放送局に政府が介入できるとしたら、権力を監視するというジャーナリズムの役割自体を期待できなくなり、報道の自由・知る権利によって担保されている民主政の維持に支障が生じかねない。
 よって、当弁護士会は、民主政の基盤たる表現の自由、報道の自由を萎縮させ、国民の知る権利への侵害を惹起しかねない今般の総務大臣の発言に強く抗議し、その撤回を求めるとともに、政府に対し、放送事業者の自律的判断にゆだねることなく、表現の自由の侵害となり得る放送法第4条を根拠とした行政指導や処分を行わないよう求める。

もどる