高浜原発の運転差止めを認めた大津地裁仮処分決定について、立憲主義と裁判官の独立を看過した発言を遺憾とする会長声明

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更新日:2016年03月30日

2016年(平成28年)3月30日
第二東京弁護士会 会長 三宅 弘
15(声)第28号

 報道によれば、関西電力の高浜原発3、4号機の運転を差し止めた大津地方裁判所の仮処分決定について、関西経済連合会副会長がこれを批判し、記者会見において「なぜ一地裁の裁判官によって、(原発を活用する)エネルギー政策に支障をきたすことが起こるのか」という発言がなされたとされる。
 しかし、この発言は、このとおりなされたものとすると、日本国憲法が、立憲主義の基本理念に基づき、立法、行政、司法の三権分立を採用し、憲法76条3項において、裁判官の独立を規定していることを看過するものであり遺憾である。
 憲法76条3項は、「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」と規定されているが、原発差止訴訟においても、立憲主義の下、この規定に基づく独立した司法の判断がなされなければならないことはいうまでもない。これを前提として、大津地裁仮処分決定は、伊方原発訴訟最高裁判決が示した合理性の判断基準、すなわち「裁判所の審理、判断は、原子力委員会...の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは...調査審議及び判断の過程に看過しがたい過誤、欠落があり...判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、...右判断に不合理な点がある」とする判断基準に準拠している。そのうえで、原発の運転によって債権者らの人格権が侵害されるおそれがあることについて一応の疎明がなされたものと考えるべきところ、その合理的判断について債務者側が主張と疎明を尽くしていないとするものである。大津地裁仮処分決定における合理性の判断は、司法権の独立に準拠しているものであって、この点をもって、上記のように批判されるいわれはない。
 かつて、もんじゅ設置許可の無効確認を認めた、もんじゅ差戻後控訴審判決の後にも、「鑑定人裁判の怖さ」や「『相対的安全性』の基本原則」を強調して、行政の判断を尊重し、司法の権限行使に謙抑的になることを説いた原子力工学者や行政法学者がいた。志賀原発差止訴訟金沢地裁判決が、建設・運転の差止めを認めた後も、同訴訟控訴審判決は、震源を特定しない地震としてマグニチュード6.8を想定することや近隣の活断層が同時に連動して活動することはないとした判断などは合理的であるとして、行政と電力会社が一体となった原子力発電事業を監視する職責を果たしえなかった。
 当弁護士会は、大津地裁仮処分決定については、この後の司法審査、最終的には最高裁判所の判断によって、伊方原発最高裁判決の提示する合理性の判断基準に基づく判断がなされていくものと承知しているが、その過程において、立憲主義の下で、司法権の独立を妨げるような動きがあってはならないと考え、立憲主義と裁判官の独立を看過した発言を遺憾とすることを表明する。

高浜原発の運転差止めを認めた大津地裁仮処分決定について、立憲主義と裁判官の独立を看過した発言を遺憾とする会長声明

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