犯罪被害者のプライバシー尊重を求める会長声明
2017年(平成29年)12月5日
第二東京弁護士会 会長 伊東 卓
17(声)第7号
本年10月、神奈川県座間市において、合計9名のご遺体がアパートの一室から発見されるという痛ましい事件が発生した。
ご遺体の身元が明らかになると、被害者の氏名はもとより、被害者やそのご遺族(以下「被害者等」という。)が公にされることを望まないと思われる情報までもが、
連日テレビ、新聞等によって報道される事態となっている。
現在、殺人事件が発生するなどした場合、被害者の氏名等が報道機関によって報道されるが、これにより、被害者等は被害にあった事実だけでなく、
自らは外部に積極的に開示したいとは思わない事実までもが一方的に公表されて周知され、事件の被害のほかにさらなる被害を受けてしまうことが往々にしてある。
世間の耳目を集める事件であればあるほど、被害者の実名や顔写真を報道する理由や必要性について、あるいは、
被害者等のプライバシー権を犠牲にしてまで生い立ちや人となり等を報道する大義について、十分に議論・検討がなされないまま報道されたと考えられる事例が少なくない。
本来、被害者等のプライバシー権に配慮して、被害者等が本当に語る必要があると感じた時に自ら語り始めるまで、待つ余裕のある社会の実現が望まれる。
今回の座間市の事件においても、遺族にその意向を確認しないまま、あるいは、実名等を報道してもらいたくないという遺族の申し入れを無視して、
十分な検討もなされることなく、急ぎ実名等の報道がなされたといわざるを得ない状況であった。
もちろん報道機関には報道する自由があり、知る権利に奉仕する報道の自由が最大限尊重されるべきものであることは当然である。しかしながら、
被害者等にもみだりに個人的な情報を白日の下にさらされないプライバシー権が保障されている。報道の自由も知る権利も、無条件に個人の尊厳に優越するものではない。
このような事態に際し、当弁護士会は、報道機関に対し、被害者等の実名等を報じるにあたっては、被害者等の意向を十分に確認し、
その被害者等のプライバシー権を犠牲にしてまでも報道すべき事項であるかについて、慎重に判断するよう求めるものである。