会長声明・意見書

憲法記念日を迎えての会長声明

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更新日:2018年05月02日

2018年(平成30年)5月3日
第二東京弁護士会 会長 笠井 直人
18(声)第2号

 日本国憲法は、本日、憲法施行71周年を迎えた。
 昨年の同じ日、安倍自民党総裁は、「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という憲法改正構想を公表した。 そして本年3月、自民党憲法改正推進本部は、日本国憲法について、自衛隊明記、緊急事態対応、合区解消・地方公共団体、教育充実の4テーマからなる「条文イメージ・たたき台素案」を決定した。 このうち自衛隊明記については、憲法第9条第1項及び第2項を残しつつ新たに第9条の2を設け、「我が国の平和と独立を守り、 国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げ」ないとし、「そのための実力組織」として、法律の定めるところにより 「内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」ことが明記されている(以下「自衛隊明記案」という。)。 この自衛隊明記案は、「わが国を取り巻く安全保障環境の緊迫化」を理由に検討したとされており、憲法改正により自衛隊を憲法に位置付け、違憲論を解消すべきであると説明されている。
 日弁連が第48回人権擁護大会で宣言したとおり、日本国憲法第9条の、戦争を放棄し戦力を保持しないという徹底した恒久平和主義は、平和への指針として世界に誇りうる先駆的意義を有している。 そして、同じく第51回人権擁護大会で宣言したとおり、憲法第9条は、現実政治との間で深刻な緊張関係を強いられながらも、自衛隊の組織・装備・活動等に対し大きな制約を及ぼし、 海外における武力行使及び集団的自衛権行使を禁止するなど、憲法規範として有効に機能してきた。2016年(平成28年)3月に施行されたいわゆる安保法制は、 集団的自衛権行使を容認するものであることから、日弁連及び当弁護士会は、その廃止を求め続けている。
 しかし、憲法第9条の2による自衛隊明記案は、前条の規定に妨げられることなく「必要な自衛の措置」をとりうるとするものであり、 いわゆる「存立危機事態」に限らず広く集団的自衛権の行使を可能とし、憲法第9条の規定を有名無実化させ、恒久平和主義の内実に実質的な変化をもたらすおそれがある。 自衛隊の行動についても、憲法第9条第1項及び第2項に妨げられず法律に委ねられることとなり、実効性のある統制を困難ならしめ、 国家権力を制約し国民の権利・自由を保障する立憲主義に違背するおそれがある。
 また、緊急事態対応の規定は、「大地震その他の異常かつ大規模な災害」といった事態において、「国民の生命、身体及び財産を保護するため」に政令を定めることができるとするものである。 当弁護士会は、災害対策・テロ対策等を理由として、憲法に緊急事態条項を新設することは、行政府による濫用の危険性が高く、 基本的人権の尊重と権力分立を旨とする立憲主義体制を根底から否定するものであり、憲法上認めがたいとして反対してきた。今回の案についても同様の問題点を指摘せざるを得ない。
 さらに、憲法改正を論ずる前に、憲法改正手続法(国民投票法)の問題点を解消する必要がある。同法については、日弁連が2009年(平成21年)11月に発表した意見書において、 最低投票率の定めがないことなど8項目の問題点が指摘されており、当弁護士会も、その成立及び施行に反対し、同法の見直し・改訂を再三にわたり強く求めてきたものである。
 私たち弁護士は、弁護士法第1条に基づき、基本的人権を守り社会正義を実現することを使命としている。 平和のうちに安全に生きる権利(平和的生存権)は、全ての基本的人権保障の基礎となる人権であり、戦争は、個人の尊厳を破壊する最大の人権侵害にほかならない。 日本国憲法は、第二次大戦の悲惨な経験と反省の下に、戦争の惨禍を再びもたらすことのないよう定められた。私たちは、憲法改正をめぐる議論において、 立憲主義の理念が堅持され、国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義など日本国憲法の基本原理が尊重されるよう、引き続き力を尽くしていく所存である。

憲法記念日を迎えての会長声明(PDF)

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