政府による海賊版サイトへの緊急対策を受けての会長声明

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更新日:2018年06月14日

2018年(平成30年)6月14日
第二東京弁護士会 会長 笠井 直人
18(声)第4号

 政府の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議は、本年4月、「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」を発表し、海賊版ウェブサイトへの対策として、政府が指定する3つの海賊版ウェブサイト及びこれと同一とみなされるウェブサイトに限定して、民間事業者による自主的な取組としてブロッキングを行うことが適当である旨の見解を表明した(以下「本件政府決定」という。)。
 本件政府決定を受け、自主的にブロッキングを実施する決定を行う民間事業者が出てきている(以下、本件政府決定を受けて行われる自主的ブロッキングを「本件ブロッキング」という。)。
 しかしながら、本件ブロッキングが仮に実施された場合、以下で述べるとおり通信の秘密侵害罪が成立する可能性が高く、ひいては国民の通信の秘密を侵害するおそれがあり、許されるものではない。政府は、速やかに本件政府決定を撤回し、民間事業者は通信の秘密侵害罪にもなりうる自主的ブロッキングを差し控えるべきである。
 通信の秘密は、個人の私生活の自由を保障し、自由なコミュニケーションの手段を保障するために必要不可欠な重要な権利であり、このため憲法第21条第2項後段は「通信の秘密は、これを侵してはならない。」と規定している。このような憲法の趣旨を踏まえ、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密については、電気通信事業法第4条及び第179条により罰則付きの保護が与えられている。
 本件ブロッキングは、通信の秘密侵害罪の構成要件に形式的に該当する可能性があり、そのような可能性については本件政府決定自身も認めているところであるが、本件政府決定は「緊急避難(刑法第37条)の要件を満たす場合には、違法性が阻却される」との見解を表明している。そして、本件政府決定は、刑法第37条の緊急避難について、①現在の危難、②補充性(やむを得ずにした行為であること)、③法益権衡の三要件全てを満たす場合に「特に悪質な海賊版サイトに関するブロッキング」をすることができる旨の見解も表明している。
 しかしながら、本件政府決定は、「権利者が、①特に悪質な海賊版サイト運営者への削除要請、②検索結果からの表示削除要請、③サーバー管理者・レジストラへの削除要請・閉鎖要請、④インターネット広告の出稿停止要請、⑤特に悪質な海賊版サイトへの訴訟・告訴の対応等、考えられるあらゆる対策を取ったものの、当該サイト運営者側が、侵害サイトの匿名運営を可能とするサービスを利用すること等によって運営者の特定が実質的に困難なケースなどのように、いずれの対策も実質的な効果が得られない場合」に本件ブロッキングについて補充性の要件を充足する余地を示すが、現段階においては、権利者によりこれら①から⑤等のより侵害性の低い手段が尽くされたか疑問の余地がある。
 さらに、法益権衡の観点からも、著作権は、児童ポルノのように重大かつ回復不可能な人格権の侵害を不可避的に生じさせる場合に比べると、財産権であり被害回復の可能性もあることから、通信の秘密との間で法益の権衡を満たすかはなお疑問の余地がある。
 以上のことから、本件政府決定で示された見解に基づく本件ブロッキングについては必ずしも緊急避難が成立するとはいえず、むしろ本件ブロッキングを実施した各プロバイダに通信の秘密罪が成立する可能性が高く、ひいては国民の通信の秘密を侵害するおそれがある。
 通信の秘密の保護は、国民の安全かつ安心な通信のために不可欠の前提となるものであり、安易に侵害されてはならない。本件ブロッキングは法的根拠がなく、本件政府決定は、上記のとおり緊急避難による法的な正当化が困難であり、許されるものではない。
 したがって、政府は、速やかに本件政府決定を撤回し、民間事業者は通信の秘密侵害罪にもなりうる自主的ブロッキングを差し控えるべきである。
 他方、インターネット上の海賊版サイトによる著作権侵害の問題は重大であるから、法的な根拠のない政府決定等を行うことなく、国民に問題を提起して十分な議論を行い、インターネット上の著作権侵害の被害を防止するための立法措置を検討すべきである。

政府による海賊版サイトへの緊急対策を受けての会長声明(PDF)

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