会長声明・意見書

死刑執行に抗議する会長声明

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更新日:2018年07月26日

2018年(平成30年)7月26日
第二東京弁護士会会長 笠井 直人
18(声)第10号

 本日、東京拘置所において3名、名古屋拘置所において2名、仙台拘置支所において1名の合計6名に対し死刑が執行された。本年7月6日の7名に対する死刑執行に続く大量執行であり、その中には再審請求中であるものも含まれている。第2次安倍内閣以降、死刑が執行されたのは、14回目で、合わせて34名になる。
 いうまでもなく、犯罪により奪われた命は二度と戻ってこない。このような犯罪は決して許されるものではなく、犯罪により身内の方を亡くされた遺族の方が厳罰を望むことは、ごく自然な心情である。また犯罪被害者・遺族のための施策は未だ十分ではなく、これらの方々が必要な支援を途切れることなく受けることができるように支援することは、 弁護士会を含む社会全体の責務である。
 他方、生まれながらの犯罪者はおらず、多くは、家庭、経済、教育、地域等における様々な環境や差別が一因となって犯罪に至っている。 刑罰制度は、犯罪への応報にとどまらず、社会復帰の達成をめざすものでなければならず、このような考え方は、再犯の防止に役立ち、社会全体の安全に資するものである。
 刑事司法制度では、誤判・えん罪の可能性を否定することはできず、誤って死刑を執行した場合、取り返しがつかない。特に日本では、1980年代に4件の死刑事件について再審無罪が確定しており、いわゆる袴田事件も、東京高等裁判所で静岡地方裁判所の再審開始決定が取り消されたものの、弁護側の特別抗告により最高裁判所における審理が続いている。死刑に直面している者に対し、被疑者・被告人段階、再審請求段階、執行段階のいずれにおいても十分な弁護権、防御権が保障されるべきであり、再審請求中の死刑確定者に対する死刑の執行はこの観点からも問題の残るものである。
 また、国際社会においては死刑廃止に向かう潮流が主流であり、死刑制度を残し、現実的に死刑を執行している国は、世界の中では少数に留まっている。OECD加盟国のうち、死刑を存置しているのは、日本・韓国・米国の3か国だけであるが、韓国は10年以上死刑執行をしていない事実上の死刑廃止国であり、米国は2017年10月時点で19州が死刑を廃止し、4州が死刑執行モラトリアム(停止)を宣言している。したがって、死刑を国家として統一して執行しているのは、OECD加盟国のうちでは日本だけという状況にある。
 日本弁護士連合会は、2016年10月7日、第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、日本政府に対し、日本においてオリンピック・パラリンピック及び国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであることなどを求めている。
 本年7月6日の死刑執行を受け、ドイツ連邦政府の人権政策委員は、「忌まわしい犯罪の被害に遭われた方々や犠牲者のご家族の方々の気持ちに寄り添いたい。そのとてつもない苦しみが忘れ去られることは決してない。」としつつ、「この犯罪がいかに重いものであろうとも、死刑を非人道的かつ残酷な刑罰として否定するというドイツ政府の原則的立場は変わらない。従って、ドイツは今後もEU各国とともに、世界における死刑制度廃止に向け積極的に取り組んでいく。」との談話を発表し、その最後を「東アジアにおいて価値を共有する最も重要なパートナーである日本と、死刑制度廃止の是非について一層活発な対話を進められるよう願っている。」と締めくくっている。
 死刑が生命を剥奪する刑罰であり、国家による重大かつ深刻な人権侵害であることをふまえ、日本政府は、国際社会の声に真摯に向き合う必要がある。
 当弁護士会は、これまでの死刑執行に対しても強く抗議してきたところであるが、今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、死刑執行を停止し、2020年までに死刑制度を廃止することを改めて求めるものである。

死刑執行に抗議する会長声明(PDF)

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