「表現の不自由展・その後」の展示中止に関する会長声明

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更新日:2019年10月23日

2019年(令和元年)10月23日
第二東京弁護士会 会長 関谷文隆
19(声)第6号

1 愛知県内において本年8月1日から10月14日まで開催された国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」は、開幕直後の8月3日から10月7日まで、2か月以上にわたり展示を中断せざるを得ないという異例の事態となった。
 この企画展は、慰安婦を象徴する「平和の少女像」や、昭和天皇の写真を含む肖像群を燃やす映像作品など、過去に公的施設などで展示が許されなかった作品を展示していた。
 ところが、展示内容が報道された直後から事務局への電話等が殺到し、テロの予告や脅迫ともとれるもの、応対した職員に対する個人攻撃をほのめかすものも多くあり、安全な運営が危惧されるとして、8月3日、中止に至った。
 ファックスにて脅迫文を送った者は、8月7日に威力業務妨害罪で逮捕され、同月28日に起訴された。自己の意に沿わない言論や作品に対して違法な暴力や脅迫により排除しようとする行為は、犯罪であり、決して許されない。

2 企画展を巡っては、視察した河村たかし名古屋市長が「国民の心を踏みにじるもの」と話し、税金を使って公共の場所で開催することは止めるべきであり、作品の展示を即刻中止するよう愛知県知事に求めたことが報じられた。
 しかし、公権力を扱う立場にある者が、作品の内容に異議を唱えて中止を求めることが、表現活動に重大な萎縮効果をもたらす危険な態度であることは、表現の自由の重要性を認識する国民の多くがよく知るところである。同市長の発言は、個人的な不快感を「国民の心」に置き換えた不遜なものとの誹りを免れない。

3 さらに、補助金の交付に関し、8月2日の菅義偉官房長官の「事実関係を確認、精査したうえで適切に対応していきたい」との発言と、柴山昌彦前文科相の「事業の目的と照らし合わせて確認すべき点が見受けられる」との発言に続いて、文化庁は、9月26日、補助金の全額を不交付とした。その理由は、「愛知県は、展覧会の開催に当たり、来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、それらの事実を申告することなく採択の決定通知を受領した上、補助金交付申請書を提出し、その後の審査段階においても、文化庁から問合せを受けるまでそれらの事実を申告」しなかったというものである。
 文化庁は、展示内容そのものを不交付の理由とはしていないが、補助金の交付要件として、言論・作品に対する脅迫等がなされる可能性を「重大な事実」として申告すべき義務を課したことになる。これでは、自己の意に反する他人の言論・作品に対する妨害行為等を正当化する余地を与えかねず、また、展示する表現物の選別や内容に手加減を求めることにつながるおそれがあり、自由な表現活動に対する阻害要因となる。

4 憲法21条が保障する表現の自由は、個人が表現活動を通じて自己の人格を発展させるという個人的な価値とともに、表現活動によって国民が政治的意思決定に関与するという社会的な価値を有する極めて重要な権利である。
 もとより「表現の不自由展・その後」の展示内容に反対する自由も保障されているのであるから、反対するのであれば、脅迫行為あるいは政治介入によってではなく、思想の自由市場における言論によって対抗すべきである。
 当会は、「表現の不自由展・その後」の展示の中止を求める違法な攻撃や表現活動に萎縮効果をもたらす公権力の介入に強く抗議し、多様な表現の自由が保障される社会の確立を目指して、一層の努力をする決意を表明する。

「表現の不自由展・その後」の展示中止に関する会長声明(PDF)

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