ジェンダーバイアスとは

ジェンダーバイアスとは

1995年北京女性会議以降、「ジェンダー」という言葉が日本でもかなり使われるようになりました。
「ジェンダー」とは一般的な訳語としては「社会的文化的性差」であり、「バイアス」は「偏見」ですから、そのまま訳すと「社会的・文化的性差別あるいは性的偏見」という訳語になります。
「ジェンダー・バイアス」とは、男女の役割について固定的な観念を持つこと、社会の女性に対する評価や扱いが差別的であることや社会的・経済的実態に関する女性に対する神話を指すと言われます。

例えば、男性は外で働き妻子を食べさせるのが当たり前、女性は家事をこなし子どもを育てるのが役目、とか、女性は社会性に乏しく理性的でない、女性は生産性のない仕事に従事しているから低賃金でも当然、など、さまざまな点で「ジェンダー・バイアス」が指摘されます。
司法の場では、離婚事件などでは、夫と妻の役割を固定的に考えて結論づけるとか、夫からの暴力、いわゆるドメスティック・バイオレンスに関し、それを認めるような発言等が関係者によってなされたりするような場合が考えられますし、女性を被害者とする性犯罪やセクシュアル・ハラスメント事件においては、女性は必死で抵抗するもの、という観念にとらわれたり、審理には不要の被害女性のプライバシーを暴き立てたりすることなどはジェンダー・バイアスの問題です。
さらに、男女の賃金格差等の問題も、ジェンダー・バイアスを含んでいます。

第二東京弁護士会両性の平等委員会では、1997(平成9)年、「司法におけるジェンダー・バイアス」の問題を取り上げました。 というのは、人権救済の砦である司法において「ジェンダー・バイアス」が存在するのであれば、これは見過ごせない人権侵害と考えたからです。
そして、まず、「判決」に表れた「ジェンダー・バイアス」の調査を行いました。
1998年から99年にかけて判決の調査結果をまとめ、さらに各委員が弁護士として感じたジェンダー・バイアスなどについて意見交換をし、1999年12月にパンフレット「司法におけるジェンダー・バイアス」を作成しました。
ジェンダー・バイアスの除去は、何よりも教育や研修が必要なので、大学後期課程や司法試験合格後の法曹の卵である司法修習生を対象として執筆し、こうした対象の皆さんに配布しました。
「司法におけるジェンダー・バイアス」の問題は、日本では調査すら行われていません。法曹界で積極的な取り組みがなされた事実は、残念ながらほとんどないでしょう。こうした状況を把握し、当委員会では、パンフレット完成以後も継続してこの問題を研究しています。

パンフレットでは、「判決」を調査し、裁判や調停という場のみをその対象としましたが、もっとさまざまな場面での問題を考えなければなりません。
例えば、法律そのもの、裁判所、検察庁、弁護士会の各人事的側面、裁判では審理過程、判決、刑事手続では捜査過程、弁護士個人としては対依頼者や相手方、弁護士同士等、多様な場面でジェンダー・バイアスの問題は発生します。
これらすべてが「司法におけるジェンダー・バイアス」の問題です。司法改革において、どのようにジェンダー・バイアス除去の取り組みがなされるかも、大きな問題です。

このように「司法におけるジェンダー・バイアス」は一語では定義されない複雑な問題をはらんでいますし、必要な調査・研究も多岐にわたります。
その上、私たちが潜在的に持っている観念や社会的通念にも根強く残ってジェンダー・バイアスと常に対峙することも必要です。