会長声明

2005/08/04

少年法等の改正に関する会長声明

2005(平成17)年8月4日
第二東京弁護士会 会長 高木 佳子

 2005年3月1日、「少年法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され、6月14日、衆議院本会議で同法律案の趣旨説明が行われました。しかし、同法律案は重大な問題を含んでおり、当会は以下のとおり、国選付添人の導入の点を除き、同法律案に反対の意見を表明します。

  1.  触法少年に係る事件について、警察官の調査権限を認め、新たに強制調査権限を認めることに反対します。
     同法律案は、円滑な調査や事案の十分な解明のために必要であるとの理由から、触法少年に係る事件について、警察官の調査権限を認め、新たに強制調査権限を認めようとしています。しかし、現在の警察活動の実態に照らしてみれば、警察や児童相談所における調査段階で、少年が弁護士の援助を受けられる制度を確立することこそ急務です。同法律案は、14歳以上の少年に対してさえ大きな弊害が出ている警察の密室における取調べを、14歳未満の少年にも広げようとするものであり、問題は極めて重大です。触法少年に係る事件の背景には、児童虐待や家庭の機能不全といった問題が潜在しています。少年の未熟さや被暗示性、迎合性の強さなども考えれば、触法少年に対しては、弁護士の援助が受けられる制度を確立した上で、福祉的観点から、子どもの心理やカウンセリングに通じた専門家が子どもの特性に配慮した対応を行うことが最も適しています。警察官が事案解明という見地から取調べを行うことは、弊害を大きくするだけです。
  2.  ぐ犯少年に係る事件について、警察官の調査権限を認めることに反対します。
     「ぐ犯少年」とは「保護者の監督に服しないなど、将来、法を犯す行為をするおそれのある少年」を意味しますから、もともとその範囲があいまいであり、そのこと自体が問題と言われています。それにもかかわらず、同法律案は、ぐ犯の「疑いをかけられた少年」に対してまで調査権限を広げようとしています。しかし、それでは事実上全ての子どもが調査対象とされかねません。警察官の取調べによる弊害等を考えれば、このことは重大な問題です。
  3.  14歳未満の少年について、少年院送致を認めることには反対です。
    同法律案は、非行を犯した少年に対する処遇の幅を広げるなどの理由から14歳未満の少年についても少年院送致を認めています。現行法は、14歳未満の少年を14歳以上の少年と同一に取り扱うことは適切でないとするものですが、その立法趣旨を変更する必要性についての具体的な検証は行われていません。むしろ、低年齢で重大事件を犯す少年ほど、児童虐待や家庭の機能不全などの問題を抱えており、福祉的対応が必要とされています。現在の児童自立支援施設においては、このような少年たちに対して適切に処遇がなされており、退所後も問題を生じていない旨の報告がなされています。同法律案が認められれば、厳罰化の流れの中で、14歳未満の少年であっても事件の重大性のみを理由として、十分な検討がなされないまま少年院送致とされる危険性が非常に高くなるといわざるを得ません。
  4.  保護観察中の少年に対し、遵守事項違反を理由として、少年院送致を認めることに反対します。
     保護観察は、担当保護観察官や保護司が少年との信頼関係を築きながら、ケースワークを通じて少年の更生を目指すものであって、失敗を繰り返しがちな少年を担当保護観察官や保護司が支えながら少年を更生へと導いていく制度です。遵守事項の不遵守を理由にして少年院送致を認めることは、いきおい「威嚇」を通じて少年を指導することにつながりやすく、信頼関係を基礎にしてケースワークを通じて少年を更生させようとする保護観察制度を根底から覆すことになりかねません。「威嚇」による指導では、少年は、担当保護観察官や保護司に対して表面上だけ取り繕うことになりかねず、失敗や悩みを打ち明けることさえできません。
     それだけでなく、同法律案は、少年に対して、1つの非行事実について、保護観察と少年院送致という2種類の別個の不利益処分を連続して科するものであるため、憲法第39条の定める二重処罰の禁止に抵触するおそれがあります。
  5.  国選付添人の拡充については、選任対象事件の範囲を広げること自体は歓迎ですが、(1)その拡大の範囲があまりにも狭いこと、(2)しかも、極めて狭い範囲の対象事件についてさえ、選任が必要的とされずに、選任の要否の判断が裁判所の裁量に委ねられていること、(3)少年に対する観護措置が取り消されれば国選付添人の選任を取り消すとされていることは問題です。
      憲法第31条の適正手続保障の趣旨は、少年審判にも当然に及ぶものであり、本来、少なくとも観護措置を受けた全ての少年に対して弁護士付添人が付されるべきものです。同法律案による選任対象の拡充では少年の権利保障として不十分であると言わざるをえません。また、観護措置取消によっていったん選任された国選付添人の選任を、未だ少年審判継続中にもかかわらず取り消すことは、少年の具体的な権利となった付添人依頼権を侵害するものというべきです。


 以上のとおり、当会は、国選付添人導入の点を除き、同法律案に反対の意思を表明します。

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