会長声明

2005/10/06

東京都国民保護計画作成に対する会長声明

2005(平成17)年9月30日
第二東京弁護士会 会長 高木 佳子



 東京都は、平成16年6月に成立(同年9月17日施行)した、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(以下「国民保護法」という)に基づいて、東京都国民保護協議会を設置しました。この協議会は、都知事の諮問機関とされ、「都の区域に係る国民の保護のための措置に関し広く住民の意見を求め、都民の保護のための措置に関する施策を総合的に推進する」ことを本来の目的としています。(国民保護法第37条)

 すでに本年5月25日、第一回協議会が開催され、さらに8月29日開催の第二回協議会では東京都国民保護計画の素案(以下「原案」)が審議されました。東京都は11月の第三回協議会において原案に対する意見をとりまとめ、同月中に計画案の作成までこぎつけるという、実に性急なスケジュールを組んでいます。しかも、とりまとめられた計画案は、内閣総理大臣との協議を経て決定され、都議会は単に事後報告を受けるだけで、審議も承認も不要とされています。

 しかし、このような審議のありかたは、広く住民の意見を求めるべき協議会の設置目的にそぐわないのみならず、地方自治の本旨や民主主義の理念に鑑み、大きな問題と言わざるをえません。

 そもそも、計画案における国民保護措置では、人権保障のための具体的な手続・方法につき十分な定めがありません。たとえば、立入禁止等の措置、立入制限区域の指定、警戒区域の設定等の強制措置は、当然に住民の行動の自由、報道機関の取材活動の自由を制限するものです。それにも関わらず、それを回避するための具体的規定や各措置を取る場合の具体的要件やその手続についての規定が全く定められていない点は、人権保障の観点からは問題があります。

 原案における「平素からの備えや予防」の部分では、本来の憲法の理念からすれば、武力攻撃事態を招かないための予防方法、例えば、平和外交への努力、外国との文化交流・人材交流、在日外国人の権利擁護、人権思想の啓発や平和教育等の推進が図られるべきです。しかし、原案はそのような観点は一切示さず、むしろ公共施設における徹底した警戒等を策定しようとしています。このような姿勢は、かえって住民間の相互不信を招き、人権軽視・少数者への差別感情を助長しかねません。


 このように、計画案は、その内容自体、憲法が保障している基本的人権の尊重・手続保障、とりわけ外国人の人権、また、国民の知る権利、報道の自由という観点からは、権利侵害防止に対する配慮が極めて不十分であると言わざるを得ません。

 また、仮に「武力攻撃事態」等の発生が想定される場合でも、地方自治体が第一になすべきことは、まさに「住民の保護」です。このことは、武力攻撃事態法が地方自治体の任務について、「当該地方公共団体の住民の生命、身体及び財産の保護に関して、国の方針に基づく措置の実施その他適切な役割を担うことを基本とする」(同法7条)と定めていることからも明らかです。しかしながら、そもそも、そのような事前予測が困難な「武力攻撃事態」等に対し、住民の生命・身体の安全や財産を守るために必要な避難や救援のための計画を、住民の人権を配慮しつつ具体化する作業は、決して容易ではありません。とりわけ首都東京地域には、政治・経済・社会機能が高度に集積し、米軍基地や米軍施設も存在しているという特殊性があります。ここに武力攻撃等が加えられた場合に、人権保障に配慮しつつ東京都に居住する住民の生命や生活の安全を守ることは、東京都に課された重大な責務です。このような重大問題に対する計画の策定は、多角的観点から、十分なデータに基づく想定を基礎に検討しなければなりません。そのためには、十分な審議が必要なことは明らかです。

 それにも関わらず、たった3回の形ばかりの協議会を開催するのみで、都議会での審議もなく計画案を作成することは、手続的にも地方自治の本旨や民主主義の原則等に照らし、とうてい許されることではありません。

 よって当会は、東京都国民保護協議会に対し、計画案審議にあたって、幅広い住民の意見を聴きながら、慎重かつ十分な議論を尽くすよう、強く求めるものです。

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