意見書

2006/09/07

憲法改正国民投票法案に関する与党案・民主党案についての意見書

2006(平成18年)年9月7日
第二東京弁護士会 会長 飯田 隆

 2006年5月26日、与党は「日本国憲法の改正手続に関する法律案」(以下「与党案」という)を、民主党は「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」(以下「民主党案」という)を、それぞれ衆議院に提出し、第164回通常国会で継続審議とされた。
 第二東京弁護士会は、2005年4月、与党によって第163回通常国会に上程されるべく準備されていた当時の憲法改正国民投票法案について、国民主権を実現するための根幹をなす表現の自由を過度に制約するものであって容認できないことを指摘し、上程を取りやめて抜本的見直しを強く求める会長声明を発し、当会憲法問題検討委員会においても法案の問題点を詳しく指摘した意見書を明らかにした。
 現在、継続審議となっている与党案では、前記意見書において指摘した広汎なメディア規制や外国人による運動の全面的禁止の条項は削られた。しかし、現与党案・民主党案のいずれにおいても、なお、憲法改正手続の中で国民主権をよりよく実現する観点からみて多くの問題点が含まれていることから、各法案が上程された直後の2006年5月31日、第二東京弁護士会は再度声明を明らかにし、法案の主要な部分について多岐にわたって重大な問題点があって到底賛成することができないことを表明し、慎重な審議を強く求めた。今回の意見書は、次期国会での審議に向けて、この声明の趣旨をさらに敷衍して、以下にその問題点を指摘するものである。


1. 国民投票運動の規制について
2. 広報活動における公平性の確保
3. 周知期間を十分に確保すべき
4. 国民の意思が反映する投票方式及び発議方式を
5. 最低投票率の定めの必要性
6. 国民の「投票総数」の過半数の賛成を必要とすべき
7. 国民の意思が正しく反映される投票用紙の記載方法を
8. 投票年齢を満20年より下げるべき
9. 国民投票無効訴訟について十分な検討を
10.憲法審査会の常置は疑問
11.まとめ



1.国民投票運動の規制について
(1)公務員・教育者の運動の自由は確保すべきである
 憲法改正国民投票は、国の最高規範たる憲法に関して、改正権者たる国民の意思を直接的に問うものである。国民の意思をできるだけ忠実に反映するためには、憲法改正に関し、十分な情報が自由に流通し、国民の意見表明の自由や公開で議論する場と機会が実際に十分保障されることが必要不可欠である。
 ところが、現在の与党案でも、公務員と教育者の地位を利用した運動が禁止されている。
 しかし、そもそも、現状において公務員は法律上、罰則付きで政治活動を禁止されている。2003年に憲法9条を守ろう等と記載された政党機関誌等を配布したことを被疑事実として、2004年3月3日、厚生労働省事務官が長期間の尾行後に国家公務員法102条違反で逮捕され、在宅起訴されて2006年6月29日に東京地方裁判所で有罪判決が出されている(罰金10万円執行猶予2年)。仮に憲法改正国民投票運動については、地位利用による運動以外は制限しないと定めたとしても、憲法改正国民投票運動の中には事柄の性質上政治的な意見表明が当然に含まれるのであり、一般的な政治活動が罰則付きで制限されている現状の下においては、公務員が萎縮することなく自由に国民投票運動をすることはもともと困難である。国家・地方公務員の人数は約4百万人に及び、投票結果に大きな影響を及ぼす。そもそも、現状の公務員の政治活動の制限が広範にすぎるとの議論がある中で、現状の制限に加えてさらに公務員の地位を利用した運動を罰則付きで禁止することは、公務員の国民投票運動を著しく萎縮させるものであり、そのような制限をすべきでない。
 また、与党案では、公務員にあたらない教育者についても、地位を利用して国民投票運動をすることが罰則付きで禁止されている。
 「地位利用」の概念は曖昧で多様な解釈が可能であり、とりわけ、教育者の場合、自らの創意工夫で授業を行い、児童・生徒たちに知識を与え思考力をつちかうことがその職務であることから、「地位利用」という要件は、捜査当局によって恣意的に拡大解釈されるおそれがあり、このような緩やかな概念を用いて罰則付き運動制限を設けた場合、教育者による建設的な国民投票運動および教育活動を萎縮させる危険が大きい。
 立法者については、例えば、当会が本年5月に開催したシンポジウムにおいては、憲法9条2項を削除する改正案が発議された時期に、憲法の平和主義の歴史的意義を授業の中で教えることは、「地位利用に当たらない」との回答が、与党の各参加者議員からなされた。しかし、罰則規定を最初に解釈適用し取り締まりを行うのは捜査当局であり、「地位利用」という概念が捜査当局によって恣意的に解釈される危険がないとはいえず、これによって教育者の建設的な国民投票運動に対する萎縮効果が生じることは必至である。
 憲法の価値は普遍的なものであって、国民は不断の努力によって、これを保持しなければならないとされている(憲法12条)。それにもかかわらず、国民投票法案が発議され、憲法改正案の是非について最も議論を尽くすべき時に、運動規制の条項によって現憲法の価値を教えたり、改正案を検討する授業をしにくくなるというのはまさに背理である。
 従って、このような曖昧な規定による運動制限は削除すべきである。
 なお、運動主体の制限については、国民投票の実施や広報等の職務に携わる一部公務員(中央選挙管理会の委員や投票事務関係者など)を除き、制限をすべきではない。

(2)組織的多数人買収及び利益誘導罪は恣意的適用のおそれがある
 与党案は、組織による多数の投票人に対する買収や利害誘導等を禁止し、違反者に対する罰則規定を設けている。
 しかし、首長や議員の選挙と異なり、憲法改正案に賛成か反対かの意見を表明する国民投票において、罰則付きで禁止しなければならないような不当な買収や利益誘導がいかなるものなのか、そしてこれを罰則付で禁止しなければならない現実的必要性が国民投票において果たしてあるのかについて十分に議論がなされていない。例えば、宗教団体が改正賛成または反対のために著名音楽家を呼んで、無料コンサートを実施したときには、通常のチケット代相当の経済上の利益を多数に供与したと指摘されるおそれがある。組織的多数人買収及び利害誘導罪の法定刑は3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金と定められているが、公職たるポストを金銭で買うという選挙に伴う買収は、民意を歪めるものとして罰則付きで規制されるべきであるとしても、憲法改正国民投票に関する国民の自由な表現活動の規制は必要最小限であるべきである。
 公務員・教育者の運動制限について述べたのと同様、捜査当局による恣意的な解釈が排除される保証はなく、恣意的な運用がなされたときには投票結果にも影響が及び、またこの結果を事後において是正する制度的な方策はない。
 よって、規制目的の明確でないかかる制限は削除すべきである。
 なお、いずれの案も、「(国民投票運動に関する)規定の適用に当たっては、表現の自由、学問の自由及び政治活動の自由その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」との「適用上の注意」を定めているが、このような一般条項があるからといって、前述した懸念がなくなるとは言えないことは明らかであろう。

2.広報活動における公平性の確保
(1)国民投票法案広報協議会の委員の構成
 与党案・民主党案とも、憲法改正案の広報に関する事務を広報協議会に行わせ、協議会の委員は各会派の所属議員数の比率により各会派に割り当てるとしている。しかし、憲法改正案は、各議院の議員の3分の2以上の賛成で発議されるのであるから、各会派の人数割りをした場合には、必然的に賛成派の議員が3分の2以上の多数を占めることとなる。反対の表決を行った議員の所属会派が少人数の場合には、その会派から委員が選任されないこともありえる。
 広報協議会は、解説の記載や説明会における説明について、客観的かつ中立的に行い、賛成意見・反対意見の記載、発言等については公正かつ平等に扱うとの規定もあるが、反対の意見を持つ委員が広報協議会に不在もしくは極めて少数しか存在しない場合、反対派の意見が賛成派の意見と比べ、広報の観点から不利に扱われるおそれがある。国会が、国民に対して改正案の内容を公平に紹介するためには、賛否の意見が平等に反映されるように広報協議会委員を構成すべきである。さらに、運用を公正ならしめるためには発議した議員だけではなく、有識者などの外部委員の選任も検討されるべきである。

(2)放送及び新聞広告の規制
 両案は、「政党等」が広報協議会の定めるところにより、テレビ・ラジオ放送設備を使った無料の意見の放送、新聞への無料の意見広告をすることができる旨定めている。改正案への賛否をメディアをとおして広報する意義が高いことはいうまでもない。しかし、無料の放送や新聞への意見広告を利用できるのは「政党等」、すなわち、広報協議会に届け出た、1人以上の国会議員が所属する政党・政治団体とされており、国会議員のいない政治団体や市民はメディアの定める高い広告料を負担しなければメディアを使った広告ができない。しかも、放送時間や広告回数は、当該政党等に属する議員の数をふまえて、広報協議会が定めるものとされている。各議院の3分の2以上の議員が憲法改正案に賛成して憲法改正案を発議している状況であるから、賛成の政党がラジオ、テレビ、新聞を無料で多く利用できることとなるのであって、反対意見の側は、メディアの利用に際して圧倒的に不利な取り扱いをされることとなる。 これでは、改正案を公平に国民に広報する役割を担うべき広報協議会のあり方として間違っており、国民の自由な意思形成を尊重すべき国民投票の趣旨と矛盾しているといわざるをえない。
 改正案に対する賛否の意見が公平に同等の時間・回数で放送や広告で取り扱われるようにして、国民の判断にゆだねるべきである。また、政党以外の団体や個人の意見も広報において無料で取り扱われる工夫をするなど制度のあり方を抜本的に見直す必要がある。

(3)投票日直前の放送規制の違憲性
 両案とも、投票の7日前からは、テレビとラジオを利用した広報活動を、前記の政党等によるもの以外禁止することとしている。しかし、投票直前は憲法改正に関する議論がもっとも活発になされる時期であり、政党以外からのテレビやラジオを用いた広報活動を禁止することは、憲法改正権者たる国民の自由な意思表明をさせないようにするものであり、表現の自由を定めた憲法上到底容認されないものというべきである。
 テレビ等の影響力の大きさや、テレビ広告に要する費用などを考慮すれば、一定のルール作りをする必要はあるとしても、政党には直前であっても無料の放送を認めるのに比べ、最も国民の議論が活発化する投票直前の時期において国民の自由な意思表明を抑圧する結果をもたらし、著しくバランスを欠く規定と言わざるをえず、このような規定は抜本的に見直すべきである。

3.周知期間を十分に確保すべき
 両案とも、発議した日から60日以降180日以内の日を投票の期日とする旨定めている。これは、従前の与党案の30日以降90日以内との定めが短すぎると批判が集中したため、期間を延ばしたものと考えられる。
 しかしながら、最短60日では、改正される事項が限定され、単純で理解容易な内容であったとしても短すぎる。憲法の改正は、任期の限定された公職者やその時点での政策の是非等を判断する選挙と異なり、国の根本規範を将来にわたって変更するものであって、十分に時間をかけて慎重に判断をする必要がある。国の将来を決めるきわめて重要な問題であり、学習会、講演会、大小の討論会、その他様々な集会や放送での意見交換、出版による意見発表、全国各地での公聴会などを通じて、国民の議論が深められ、意見が熟成されるよう十分な時間を確保すべきである。実際に、憲法改正案の是非を議論する大規模な集会を開催するために会場を確保しようとしても、大きな会場は、6カ月前で既に希望の時間帯では使用できないという一般的状況がある。集会やイベントを準備したり、その集会を何度か繰り返して公開の場で議論を形成したり、広報で広く意見を知らせたりするには、6カ月の期間でも短すぎる。投票日までの期間は最低2年必要であるとの有力な憲法学説も提起されているところである。
 日本国憲法が硬性憲法を採用し、改正手続の条件を厳しく定めている憲法96条の趣旨や、根本規範が変えられた場合には下位の法律にも大きな影響が及ぶ可能性があり、慎重かつ十分な議論がなされるべきことなどを考えると、どのように短くとも、最低1年以上の議論の期間が保障されるべきである。

4.国民の意思が反映する投票方式及び発議方式を
 両案はいずれも、「国民投票に係る憲法改正案ごとに」一人に1票を付与し、憲法改正原案の発議は「内容において関連する事項ごとに区分して行う」こととしている。
 しかし、憲法は、改正権者たる国民の過半数の承認によってはじめて改正しうるのであるから、国民が、提案されている個別の改正条項ごとに、賛否の意思を正確に表すことのできる機会が保障されなければならない。各自の意思を正確に表せるようにするためには、条文ごとに、場合によっては項目ごとに投票する個別投票とすることが原則であるはずである。一括で投票しなければ条項同士が相矛盾し整合性を欠いてしまうということが明らかなため、一括で賛否を問わざるをえないという技術上の現実的な問題があることは否定できない。しかし、あくまでも、国民の意思を正確に反映させるため、条文ごとに国民の賛否の意思が表示できることが原則であることが明記され、関連する複数の条項を一括して投票することが許されるのは、一括で投票しなければ条項同士が相矛盾し整合性を欠いてしまうことが明らかな場合などに限定されるべきである。

5.最低投票率の定めの必要性
 与党案も、民主党案も、最低投票率を定める規定を置いておらず、憲法96条にも定めはない。しかし、最低投票率を定めない場合、例えば、投票率40%の場合に、投票者の過半数により憲法改正が承認されることとすると、投票権者の約20%のみの賛成で憲法改正がおこなわれることになり、極めて少数の国民の賛成によって根本規範たる憲法が改正されてしまうことになる。日本国憲法が、硬性憲法であるその趣旨からすると、多数の国民の積極的な改正意見が多くない場合には、これまで定着してきた憲法の改正を国民は望んでいないものと解釈し、憲法改正を承認しないものとして扱うべきであって、憲法自体には最低投票率の定めがなくとも、法律によって、憲法改正国民投票における最低投票率の定めを設けるべきであり、そうすることに何ら妨げはないものと解される。
 イギリスやデンマークでは、総投票数の過半数で、かつ、全投票権者の40%以上の賛成が必要とする40%ルールが採用されている。日本国憲法においても、これらの国と同様の制度を採用するか、もしくは、憲法改正に賛成する者が投票権者のせめて3分の1以上は必要であるという常識的観点から、最低投票率を3分の2以上とするなど、憲法改正の承認には、投票数だけではなく、投票権者に占める割合の要素も加味した要件を含む規定とすべきである。

6.国民の「投票総数」の過半数の賛成を必要とすべき
 憲法96条の「その過半数の賛成」の意味について、与党案は、賛成の投票の数が「有効投票の総数の2分の1」を超えた場合は、憲法改正について国民の承認があったものとするのに対し、民主党案は、賛成の投票の数が「投票総数の2分の1」を超えた場合は、憲法改正について国民の承認があったものとする。
 前記のとおり、硬性憲法である日本国憲法の条項を改正するには、改正に賛成した者が、投票行動に参加した全ての者の2分の1を超えるか否かにより決すべきであり、白票や無効票を投じた者は、投票所に赴いて投票行動をしたうえで改正に積極的な賛成の意思を表示しなかったのであるから、これらの者は、過半数の分母に加え、総投票数の2分の1を超えたか否かにより決せられるべきである。
 もしも、白票や無効票が多い場合に、それらの票を除外し、有効投票総数の2分の1で憲法改正の承認となるものとすれば、憲法が予定した割合に比して著しく少数の賛成によって憲法改正が実現されることを許すことになって、硬性憲法の趣旨にもとる。賛成投票数が有効投票総数の2分の1を超えたか否かではなく、少なくとも賛成投票数が総投票数の2分の1を超えたか否かにより決せられるべきである。

7.国民の意思が正しく反映される投票用紙の記載方法を
 与党案は、憲法改正案に賛成するときは〇の記号を、改正案に反対するときは×の記号を投票人が自署しなければならないとする。これに対し、民主党案は、憲法改正案に賛成するときは〇の記号を、改正案に対し反対するときは何も記載をしないものとする。
 改正に賛成するか否かが国民投票で投票する事項である以上、改正に賛成する者だけが○を書く投票方法が正当であって、反対に×を書かせる必要はない。投票所に赴いて白票を投じた者を無効票と取り扱うことは、有効投票を著しく少なくさせ、国民の意思をゆがめて結果に反映させようとするものであり、かつ憲法改正の承認を緩やかにしすぎるものであって、硬性憲法の趣旨から不当である。 

8.投票年齢を満20年より下げるべき
 投票権者の年齢に関して、与党案は、年齢満20年以上の者とする。民主党案は、年齢満18年以上の者は投票権を有するとともに、国会の議決により、当該国民投票に限り、年齢満16年以上満18年未満の者も投票権を有するものとすることができるとする。
 現在、選挙権でさえも18歳以上の者に認めるのが世界の趨勢であること、憲法改正は国の将来を決し、その効果は将来に現れるものであることを考えるならば、できるかぎり若年層にも投票権を認めるべきであり、少なくとも18歳以上の者には投票権を認めるべきである。

9.国民投票無効訴訟について十分な検討を
 国民投票無効訴訟に関しては、与党案、民主党案、いずれも重大な問題点がある。
 まず、両案ともに、提訴期間を結果の告示の日から30日以内としているが、憲法改正という極めて重要な事項に関する提訴期間としては、短期に過ぎるというべきである。また、短すぎる提訴期間に加えて、管轄裁判所を東京高等裁判所に限定する点も重大な問題である。
 国民に広く国民投票手続法の違法性、場合によっては違憲性をも争う手段を与えることは憲法改正という国の根本法の改正の適法性確保のために重要であり、地方管轄を認めるべきである。
 国民投票が無効となる事由について、両案とも、(ア)国民投票の管理執行機関による違反、(イ)多数の投票人が自由な判断による投票を妨げられたといえる重大な違反、(ウ)賛成投票数または投票総数の確定を誤り投票結果に異動を及ぼすおそれがあるとき、の3つに限定している。これらの手続面における無効事由が規定されることは当然であるが、極めて限定されており、これ以外にも憲法改正を無効とすべき事由があり得ないのかという点について、さらに検討することが必要である。
 日本国憲法の改正には限界があり、基本的人権の保障、国民主権及び平和主義などの日本国憲法の中心原理を憲法改正という手続で変更することは改正権の限界を超えると解されている。日本国憲法は、その前文において、「・・・われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」と言明してこの趣旨を明らかにしている。この点については、与野党とも意見が一致している。したがって、実体面においても、発議された改正案が改正権の限界を超えた憲法の根本的変更(法的には革命というべきであろう)の虞があるときに、その判定について司法審査が及ぶことを明定することも考えられる。
 憲法改正無効訴訟については、無効事由以外にも、訴訟が提起された場合の効力、確定時期、効力発生の停止など、議論がほとんどなされておらず、さらに慎重な検討が必要である。

10.憲法審査会の常置は疑問
 両案とも、国会法を一部改正し、日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、憲法改正原案、日本国憲法の改正手続に係る法律案を審査するため、各議院に憲法審査会を設けるものとし、憲法審査会が憲法改正原案を提出できるものとしている。
 しかし、日本国憲法は、国民の基本的人権を保障するために国家権力を制限するという立憲主義の原則の下、硬性憲法としていることから、各議院の中に「憲法審査」という名の憲法改正原案を提出するための常置機関を置くことが憲法の予定するところであるか疑問である。
 したがって、憲法改正原案を提出する権限を有する「憲法審査会」を「常置」することについては重大な疑問が払拭できず、この点についても十分に議論を尽くすべきである。

11.まとめ
 憲法改正国民投票の手続には、いまだ十分な議論のされていない事項が多く含まれている。憲法改正は、その影響が極めて大きいものであることから、改正手続の過程において、主権者たる国民の表現の自由を保障し、国民主権をよりよく実現するために、さらに慎重な抜本的検討と議論がなされることを求めるものである。

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