会長声明

2007/06/04

教育関係「改正」三法案衆議院可決に関する会長声明

2007年(平成19年)6月4日
第二東京弁護士会 会長 吉成 昌之

1. 政府・与党は、昨年12月の教育基本法「全部改正」を受け、学校教育法、地方教育行政組織法、教育職員免許法などの「改正」三法案(教育関係改正三法案)を提出し、本年5月18日、衆議院本会議で可決した。しかしながら、教育関係改正三法案には憲法および教育基本法の立憲主義的な性格から看過できない問題点が多数ある。

2. 教育基本法は、国家権力を拘束する準憲法的な性格を持つものであることから、当会は、教育基本法「全部改正」案についても、一貫して政府及び国会に同法案の取り扱いに慎重を期すよう求めてきた。また同法成立後は、その運用にあたり時の政治権力による「不当な支配」による教育内容の統制や内心の強制につながる教育行政が行われることがないよう政府に強く申し入れるとともに、適正な運用がなされるよう厳重な監視を行っていくことを表明してきた。

3. しかるに教育関係改正三法案の内容は、以下のとおり国家による教育内容の統制を図り、教育の自主性、自律性と子どもの教育を受ける権利を侵害するおそれがきわめて大きいものとなっている。
 
(1) 学校教育法改正案には、「義務教育目標」規定(「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養う」ことなど)が設けられているが、公教育の場において個人の内面価値に立入り評価の対象とし、いわゆる「愛国心」を押しつけることは、思想及び良心の自由、教育を受ける権利・学習権を侵害することになる。
 東京都では、卒業式等で教員に国旗・国家の指導を強制し、このため子どもたちにも日の丸掲揚、君が代斉唱が事実上強制されている事態が広がっていることに鑑みるならば、「愛国心」の押しつけは、単なる危惧ではないと言うことができる。

(2) 地方教育行政組織法改正案には、法令違反・懈怠による「生徒等の教育を受ける権利侵害」の場合の「是正」要求、「緊急に生徒等の生命・身体を保護する必要」の場合の「指示」の制度が、文部科学大臣の権限として設けられている。「是正」要求制度は単位未履修問題が契機と考えられるが、これは文部科学省自身も把握しながら適切な問題指摘を怠ってきたことによるものであり、また、「指示」制度はいじめ問題が契機と考えられるが、これは国の地方教育行政への介入強化によっては何ら解決されない問題であり、むしろ、政府から独立した子どもの権利保障を確保する機関などの設置が求められるものである。
 このような改正案は、実質的に国の地方教育行政への統制を強化し、地方分権化の流れに逆行するのみならず、思想及び良心の自由、教育を受ける権利・学習権を侵害する危険をもたらすものである。

(3) 教育職員免許法改正案は、教員免許状の有効期間を10年とし、文部科学大臣の適合認定を受けた30時間の講習を終了した者について免許状の更新を行うという更新制を採用するとともに、免許管理者が免許状更新講習受講の必要性の有無を認定する制度も併せ採用し、指導不適切教員の「指導改善研修」や分限免職制度と連動するものとなっているが、これらが実施されれば、10年任期制に等しい免許状の更新のために、教員は子どもとの直接の人格的接触の中で自己研鑽に励むよりも、もっぱら任命権者・管理権者の歓心を買うことを強いられかねない。そのような萎縮効果は、教育の本質的要請を破壊しかねず、その弊害は計り知れない。免許更新制度による教員の管理統制の強化は、教育の本質的要請である自主性・自律性を損ない、教育現場を破壊するおそれが極めて強いものである。

4.以上のとおり、教育関係改正三法案は、教育の自主性・自律性を害し、教育内容の統制を図ろうとするもので、思想信条の自由、教育を受ける権利・学習権を侵害するおそれがきわめて大きい。当会は、参議院での慎重な審議を求めるとともに、これら問題点が何ら解消しないままでの法案の成立に反対する。

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