会長声明

2009/06/16

「海賊行為対処法案」に反対する会長声明

2009年(平成21年)6月16日
第二東京弁護士会 会長 川崎達也
09(声) 4号

 本年4月23日、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」案が衆議院で可決され、現在参議院で審議中である。

 本法案は、自衛隊が海賊対処行動を行う海域を、「領海」に限らず「公海」に拡大し、以て、海賊対処行動の名のもと世界のあらゆる海域に自衛隊を派遣できると規定するものである。また、海賊対処行動の対象を外国船舶を含む全ての船舶に及ぼすものでもある。

 また、本法案は、「海賊」からの攻撃がなくとも、海賊行為制止のため、武器を使用することができるとする。従来、自衛隊員の武器使用は、警察官職務執行法7条が準用され、原則として、正当防衛・緊急避難等に該当する場合に限るとされてきた。
しかし、自衛隊が、海賊が跋扈し各国が武力による海賊の制圧行動をする海域に派遣され、緩和された武器使用要件のもと、また各国と協同で海賊対処行動を行うこととなれば、武力による威嚇さらには武力行使に繋がる危険が極めて高いといわざるを得ず、憲法9条の平和主義の原則に反することとなりかねない。

 さらに、本法案は、防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得て自衛隊の海賊対処行動の実施を決定し、また、「緊急」の場合には、内閣総理大臣に対する通知のみでこれを決定することができるとする。国会の事前承認を必要とせず、事後報告のみで足りるとすることは、国会の意思ひいては国民の意思を確認することなく、極めて重要な国家行為を時の内閣の一員が決定するものといえ、国民主権、議会制民主主義を否定するものと言わざるを得ない。

 加えて、本法案は、時限立法ではないから、将来にわたり自衛隊の海外派遣を容認することに繋がるものといえる。本法案が成立した場合、国会のコントロールが及ばないまま、自衛隊の海外派遣が恒常化することになりかねず、この点も憲法9条違反の事態を招きかねないものである。

 たしかに、ソマリア沖の海賊問題は深刻な国際問題である。その背景には、ソマリアで1991年以来無政府状態が続くなど同国の複雑な政治情勢や経済問題がある。我が国の国際貢献の在り方としては、安易に自衛隊を派遣するのではなく、国の最高規範である平和憲法の精神に則り、同国並びに沿岸諸国に対する経済的な面での復興支援や技術的支援など、非軍事的な方法で海賊問題の解決に助力すべきことこそが求められている。

 よって、当会は、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」は、憲法9条に違反するおそれが極めて高いことから、その制定に強く反対するものである。

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