会長声明

2010/12/27

最高検による検証結果・再発防止策報告書に関する会長声明

2010年(平成22年)12月27日
第二東京弁護士会 会長 栃木敏明
10(声)第11号

 厚生労働省元局長の無罪事件及び大阪地検特捜部によるフロッピーディスク(FD)改ざん・犯人隠避事件に関して検証を行っていた最高検察庁は、12月24日、検証結果と再発防止策をまとめた報告書を公表した。

 最高検による個別事件の検証報告は、志布志事件、氷見事件、足利事件に続き、本件が4件目の事例である。最高検が無罪判決が出される毎に検証を繰り返している事実は、いわば身内による検証の限界を示している。本報告書においても、大阪地検特捜部による捜査の問題点として、自ら想定した事件の構図と矛盾する消極証拠を軽視したまま起訴がなされたこと、誘導などによって客観的証拠と合わない供述調書が作られたこと等が指摘され、また、証拠に基づき見立てを変更するなど適切な指導や決裁のあり方を周知徹底する等9項目にわたる再発防止策が提言されている。しかし、その一部はこれまでの検証において指摘されてきたものであり、むしろ、今求められているのは、かかる事態が繰り返し引き起こされる原因を端的に指摘し、抜本的にこれを是正する再発防止策を打ち出すことである。

 私たちは、特捜部事件に限らず、死刑事件を含む冤罪事件の構造的な原因を抜本的に是正するために、取調べ全過程の可視化及び検察官手持証拠の全面的開示の実現が必要不可欠であることを繰り返し主張してきた。本件でも、取調べの全過程が可視化されていれば、誘導による虚偽自白を得ることはできず、また、証拠の全面開示がなされていれば、消極証拠の軽視も防ぐことができたであろう。
 折しも、今般、本件とは別の大阪地検特捜部の検事が、警察作成の捜査報告書から被疑者のアリバイ発言に関する部分を削除するよう求めて、改めて捜査報告書を作成させていたことが明らかになった。これも警察段階における取調べが可視化されていれば、捜査報告書の書換えは無意味に帰していたはずであり、また、証拠の全面開示がなされていれば、早期に捜査報告書改ざんの事実が判明していたはずである。

 また、本報告書では、再発防止策の一つとして、特捜部担当の身柄事件について、被疑者の取調べの録音・録画を試行することが提案されている。これは、自白した後の調書読み聞かせ部分などに限って一部録音・録画することを予定しているものであり、取調べの核心部分を継続的に録画しておらず、取調べの適正化を担保できないものである。この点、メディアの一部はこれを「一部可視化」と評しているが、その表現は適切さを欠くものであり、弁護士会が主張している「可視化」とは全く異質な制度であるというべきである。また、取調べの全過程の可視化は、特捜部以外の検察庁及び警察の取調べにおいても同時に実現されなければならない。

 「検察の在り方検討会議」は、これまで合計3回の会議が開かれたが、本報告書の提出を受けて、2011年1月からは毎週1回のペースで本格的な会議が開かれる予定である。
 同会議は、今回の大阪地検特捜部における一連の事態を受けて、幅広い観点から抜本的な検討を加え、有効な改革策について提言することを目的として設置されたものであるから、刑事司法を抜本的に改革すべく、取調べの全過程の可視化及び検察官手持証拠の全面的開示の各実現に向けた改革提言を行うよう改めて強く求めるものである。

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