2024年3月14日、札幌高等裁判所は、家族のことを定める民法などの法律が同性のカップルの結婚を認めず、これに代わる方法を定めていないことが、婚姻の自由と法の下の平等を定める憲法に違反すると判断し、同日、東京地方裁判所も、今の法律は憲法違反の状態にあると判断しました。とりわけ、札幌の判決が、同性間の結婚も異性間の結婚も同じように憲法が保障するとした点は、これまでにない画期的な判断です。
どの性の人を好きになるのかは、生まれながらのその人の個性であり、自分の自由な判断で決められないことです。異性のカップルは、愛する人と法的に家族になることができますが、同性のカップルは法的に家族になることができません。誰もが等しく人としての幸せを求めることができる社会を作るためには、これから法律で同性のカップルも結婚できるようにするなど、家族のあり方を改めて考えることが必要になります。
法律は、国会が作るものですが、法律を作るためには、国民の皆さんが、法的に結婚が認められていない同性のカップルの苦しみをよく理解し、その気持ちに寄り添い、家族のあり方を改めて考え始めることが一番大事です。この判決が、誰もが幸せに家族と暮らせるようになるきっかけになることを期待しています。
令和6年能登半島地震で亡くなられた方々に深く哀悼の意を表するとともに、被災された皆様に心からお見舞いを申し上げます。
今回の震災は、多大な人的損害をもたらしただけでなく、建物の倒壊や交通網・ライフラインの断絶等により被災地における生活の基盤を著しく損なわせたものであり、その復旧・復興には大きな困難が伴うことが予想されます。被災された方々の真の生活再建を迅速に実現するためには、あらゆる支援措置、あらゆる法制度が活用され、その成果が被災者一人一人に行き届くことが不可欠です。法律の専門家であり人権擁護の担い手である私たち弁護士が果たすべき役割は重大です。
このような状況のもと、被災地の各弁護士会を始め、日本弁護士連合会、各弁護士会連合会等による被災者支援事業がすでに続々と開始され、成果を挙げつつあります。当会もまた、日本弁護士連合会主催による被災者無料電話相談事業に協力するとともに、関東弁護士会連合会の要請に応じ、新潟県弁護士会実施の被災者無料電話相談にも協力しており、いずれにも多数の会員弁護士が参加しています。
もとより、当会による被災者支援への協力がこれらで終わることはありません。過去の大災害の経験に鑑みれば、今回の震災からの真の復旧・復興には年単位、あるいは数十年単位の期間を要することが予想されます。当会はこれからも、過去の被災地支援の経験を活かし、今後とも能登半島地震被災地の各弁護士会をはじめ、日本弁護士連合会、関東弁護士会連合会、そして共助協定締結三会(新潟県・熊本県・兵庫県の各弁護士会)等の各地の弁護士会等と連携して、被災された方々の被害回復と権利擁護に向けて、被災地への法的支援に全力で取り組んでまいります。
当会は、令和5年8月4日に出入国在留管理庁が発表した「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」について、その内容を一部是正し、在留特別許可の対象となる子ども等の範囲を拡大するよう求める。
令和5年8月4日、出入国在留管理庁は、「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」(以下「本対応方針」という。)を発表した。
本対応方針は、2023年6月に改正された入管法(以下「改正入管法」という。)の施行時までに、日本で出生し、小学校、中学校又は高校で教育を受けており、引き続き日本で生活していくことを真に希望している子どもとその家族を対象に、家族一体として在留特別許可をして在留資格を与えるとしている。
令和4年12月末時点で在留資格のない送還忌避者(退去強制令書の発付を受けたにもかかわらず、各種の事情から自らの意思で日本からの退去を拒んでいる者)4233人のうち日本で出生した子どもは201人おり、その約7割(140人程度)に在留資格が与えられることが見込まれる。
本対応方針により、日本で出生しながらも在留資格がなく著しく自由を制限されてきた子どもと家族が、通常の生活を送れるようになることを歓迎する。
しかし、本対応方針は、以下の点において重大な問題があり、是正される必要がある。
本対応方針は、子どもが「本邦で出生して」いることを条件としている。しかし、日本で出生した子どもも、幼少期に来日した子どもも、日本で教育を受け、日本語を身につけ、日本に定着しているという点で差異はなく、両者を区別すべき合理性は認められない。
この点、子どもの権利条約第3条は、児童に関するすべての措置をとるにあたって行政当局・立法機関等が「子どもの最善の利益」を主として考慮すべきことを規定している。また、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)は、「何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。」(第17条1項)、「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する。」(第23条1項)と規定しており、同規約は家族結合権を保障している。
そうすると、本対応方針のように、同じ両親の子どもでありながら、幼少期に来日した子どもと日本で出生した子どもを区別することは、子どもの最善の利益(子どもの権利条約第3条)を軽視し、家族の分断を招き、家族結合権(自由権規約第17条、第23条)を侵害するおそれがあるものといわざるをえない。
幼少期に来日した子どもも含め、日本で出生したか否かで区別することなく在留資格が与えられるべきである。
本対応方針は、日本で出生した「子ども」すなわち18歳未満であることを要件としている。
しかし、日本で出生し又は幼少期に来日し長年にわたって日本で生活し成人に達している者は、その生活基盤や人間関係が全て日本にあるのであり、いまだ成人に達していない者に比べて日本への定着性がより高いとみるべきである。かかる観点から、日本で出生し又は幼少期に来日した者は、たとえ現時点において成人に達していたとしても、在留特別許可の対象とすべきである。
本対応方針では、「親に看過し難い消極事情」、具体的には、①不法入国・不法上陸、②偽造在留カード行使や偽装結婚等の出入国在留管理行政の根幹に関わる違反、③薬物使用や売春等の反社会性の高い違反、④懲役1年超の実刑、⑤複数回の前科を有している等の事情がある場合は、その子どもも在留特別許可の対象から除くとしている。
しかし、子どもには何ら責任がない親の事情によって、子供が差別されることがあってはならない。子どもは親とは別個の独立した人格であり、子ども自身が日本で生活していくことを望むのであれば、親の事情に関わらず在留資格が与えられるべきである。
その上で、親だけを送還するか否かについては、家族結合権(自由権規約第17条、第23条)の保障や比例原則に照らして、慎重に判断されるべきである。
在留資格のない子どもたちは、日本に定着して生活しているとしても、退去強制の対象となり、不安定な地位に立たされている。このような理不尽な状況は一日も早く改善されなければならない。
よって、当会は、日本で出生した子どものみならず全ての子どもの基本的人権が尊重されるよう、本対応方針を一部是正し、在留特別許可をする子どもとその家族の範囲を拡大することを強く求める。
「本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」を一部是正し、在留特別許可の対象となる子ども等の範囲を拡大することを求める意見書(PDF)
]]> ロシアによるウクライナ侵攻に終わりが見えないまま、イスラエルで新たな紛争が勃発しています。現在両国を含め多くの国や地域で紛争によって多くの命が奪われ続けています。平和を守るために、私たちがどう行動すべきか、憲法を変えるべきなのかなど、たくさんの意見があるところです。
本日11月3日は日本国憲法が公布された日にあたります。その憲法の前文には、このようなことが書かれています。
「われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し」
「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」
言うまでもなく、戦争は、最大の人権侵害です。弁護士の使命である基本的人権の擁護と社会正義の実現のため、当会は、国民とともに平和を念願します。
国民とともに平和を念願する会長声明(PDF)
]]> 接見とは、身柄を拘束されている被疑者・被告人が弁護士などと面会することであり、接見を行うことは、被疑者・被告人にとって重要な権利です。
特に、逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって、今後捜査機関の取調べを受けるに当たって助言を得るための最初の機会であって、これを速やかに行うことが被疑者の権利を守り、えん罪を防ぐために重要となります。
現在、政府において刑事手続のIT化の議論が進んでおり、捜査機関においてオンライン化が推進されることが確実視されている中、オンラインでの接見を刑事訴訟法が保障する接見として位置付けることが検討されています。
オンライン接見は、初回に迅速に接見できますし、被告人が遠隔地に勾留されている場合にも、弁護士の助力を得ることが容易になります。
現に、東京においても、多摩地域の遠い警察署までは2時間以上かかることもあり、都心にある東京地方検察庁や法テラス東京にオンライン接見の拠点ができることで、より充実した弁護活動を行うことができることになります。
一方で、捜査機関側から、オンライン接見について、実施設備に伴う人的・経済的コストの負担や、なりすまし等の危険がある等の問題が指摘されています。しかし、刑事手続のIT化により、捜査の一部をオンラインで行うことが進められており、そこではアクセスポイントの設定が前提となっています。それを弁護人も使用するならば、コストが大幅に増大することはありません。また、アクセスポイント方式を採用した現行の電話連絡制度や電話による外部交通制度において、弁護人が第三者になりすましたり、罪証隠滅を図ったりしたという事例は報告されていません。
刑事手続のIT化の議論は、何よりも被疑者・被告人の人権保障を拡充するという観点で進められるべきであり、当会は、政府において更に具体的な議論が尽くされ、オンライン接見が実現されることを強く要望します。
オンライン接見の法制度化を求める会長声明(PDF)
]]>当会は、第211回国会の衆参両院の憲法審査会(以下「審査会」と略します。)において議論された、緊急事態における国会議員の任期延長その他の緊急事態条項の創設に反対し、大規模災害に備えるために、速やかに公職選挙法の改正を行うことを求めます。
審査会では、武力攻撃、内乱・テロ、自然災害、感染症のまん延その他これらに匹敵する事態(以下「要延長事態」といいます。)において、国会の機能を維持するために、内閣の発議を受けて、各議員の出席議員の3分の2以上の多数の議決により、衆議院議員又は参議院議員の任期を最大6か月や1年などの期間延長でき、再延長も可能とし、既に解散又は任期満了により終了している任期を復活させて任期を延長できるとする緊急事態条項を設けることなどが議論されました(以下、これらを骨子とする案を「現条項案」といいます。)。
現条項案を必要とする立法事実として、東日本大震災のときに統一地方選を延期する立法措置を行ったこと、衆議院の解散時や衆参両議員の任期満了時に大規模災害が発生した場合に備える必要があり、国会議員の任期は憲法第45条及び第46条で明記されているから、憲法を改正する必要があると主張されています。
しかしながら、まずもって銘記すべきは、国会議員の任期延長という手法は、どうしても国民主権の原理を後退させてしまうという点です。現行憲法が、大日本帝国憲法(明治憲法)と異なり、衆議院議員の任期を4年と明文で限定したことの意味を軽視すべきではありません。
地方議会と異なり、国会は二院制であり、参議院は3年毎に半数改選とされていることから(憲法第46条)、衆議院の解散時や衆参両議院の任期満了時においても、国会議員が全員不在となることはありません。そして、憲法第54条第2項は、衆議院が解散されたときで、緊急の必要があるときは、内閣が、参議院の緊急集会を求めることができるとして、緊急時の対応を定めています。この緊急集会は、衆議院解散のときに限らず、衆議院議員の任期満了のときにも類推適用できるとする考え方が憲法学者の間でも多数であるとされています。したがって、緊急事態においては、まず参議院の緊急集会によって対応することが、憲法の予定しているところであるといえます。
審査会では、「選挙の一体性」が害されるほどの広範な地域で選挙の実施が困難な場合に任期延長の必要があるといった議論もなされましたが、「一体性」の概念は、現行公職選挙法において、選挙の一部無効や繰延投票制度があることから分かるように、本来存在しない概念であり、また、後述のとおり、公職選挙法の改正により、郵便投票を含めて避難先で投票できる制度を活用して速やかに選挙を実施し、又は選挙を延期する制度を設けて対応すれば足りると考えられます。
「現条項案」では、「要延長事態」については、「その他これらに匹敵する事態」であるかどうかも含め、内閣が判断して発議し、各議院の3分の2以上の多数決により延長又は復活が可能になるとされています。
しかし、国会における多数派が内閣を組織する議院内閣制のもとで、内閣にとって都合の良い会派構成か否かによって、要延長事態かどうか認定することが可能となります。しかも「現条項案」では、任期延長の上限を6か月などとして、再延長も可能としていることから、自然災害、感染症のまん延その他これらに匹敵する事態が継続しているという理由で、延長を繰り返すことも可能となっています。
これでは、現在において、国会による行政監視機能が十分に果たされていない状況の中、さらに、選挙によって国民の意思を反映させ、これを是正する手段を長期にわたり奪うことになりかねません。このような懸念は、現に憲法53条後段に基づき、総議員の4分の1以上の臨時国会召集要求があったにもかかわらず、数か月間にわたり国会が召集されないという事態が、ここ数年でも多数回発生していることからも、十分根拠のあるものです。
そもそも日本国憲法前文及び第1条は、主権が国民に存することを宣言し、同第15条第1項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」とし、同第43条は、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と定めています。国民主権のもとで、国会議員を選挙により選定する権利は、最大限保障される必要があります。
他に手段があるにもかかわらず、国会議員の任期を延長したり、身分を復活させたりする憲法改正は、選挙権を制限し、民主的正当性を損なうものであり、到底許されません。
この点では、日本弁護士連合会が、2017年(平成29年)12月22日に発表した「大規模災害に備えるために公職選挙法の改正を求める意見書」で提言した、①平時において、選挙人名簿のバックアップを取ることを法的に義務付けること、②避難者が避難先の市町村の選挙管理委員会に出向いて投票を行うことができる制度を創設すること、③大規模災害時の被災者も郵便投票制度を利用できるよう要件を緩和すること、④現行の繰延投票制度(公職選挙法第57条)にとどまらず、一定の要件下で選挙自体を延期する制度を新たに設けることなどが早急に実現されるべきです。
特に大規模災害時などにおいては、4年前や6年前に選出された議員ではなく、新たに選出された議員により、必要な立法措置や予算措置を講じていくことができるよう、災害に強い公職選挙法に改正することが急務です。
以上のほか、審査会においては、国会機能が維持できない場合に備えた緊急政令及び緊急財政処分に関する規定についても検討すべきであるとの議論がなされました。
大日本帝国憲法(明治憲法)第8条では、「天皇は公共の安全を保持し又はその災厄を避くるため緊急の必要により帝国議会閉会の場合において法律に代わる勅令を発する。」とし、同第70条では、「公共の安全を保持するため緊急の需用ある場合において内外の情勢により政府は帝国議会を招集すること能わざるときは勅令により財政上必要の処分をなすことを得」るとしていました。緊急政令や緊急財政処分は、明治憲法下における天皇の緊急勅令や緊急財政勅令に相応するものです。
当会は、2016年(平成28年)3月30日、「「国家緊急権」を憲法上に創設することは立憲主義に反し極めて危険であり不要であるとする会長声明」において、災害対策・テロ対策等を理由として、「国家緊急権」(緊急事態条項)を憲法に新設する動きは、立憲主義の観点から極めて危険でありかつ不要であることを指摘しました。
1946年(昭和21年)7月15日の帝国議会衆議院憲法改正委員会において、当時の金森徳次郎国務大臣は、民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護するためには、政府一存において行う処置は、極力これを防止しなければならないこと、・・・・この憲法は非常なる特例をもって、いわば行政権の自由判断の余地をできるだけ少なくするように考えたものであり、特殊の必要があるときは、臨時議会を召集してこれに応ずる処置をする、又衆議院が解散後であって処置のできない時は、參議院の緊急集会を促して暫定の処置をする・・・・ことが適当であろうと思う、と答弁しています。
緊急政令や緊急財政処分などの緊急事態条項は、一時的にせよ行政府への強度の権力集中と憲法上保障された人権の制限を図るものであり、行政府による濫用の危険性が高く、基本的人権の尊重と権力分立を旨とする立憲主義体制を根底から否定するものであって、そもそも日本国憲法上認められないと言わざるを得ません。緊急事態においては、参議院の緊急集会を軸として対応することで必要かつ十分であるといえます。
以上のとおり、大規模災害を含めた緊急事態における国会機能の維持は、参議院の緊急集会によるべきこと、延長を要するかどうかについて内閣の認定に委ねることは恣意的な判断を可能にすること、災害時にも選挙権行使を可能とする公職選挙法改正こそが急務であること、緊急政令や緊急財政処分は日本国憲法上認められないことから、当会は、緊急事態における国会議員の任期延長その他の緊急事態条項の創設には反対であり、むしろ、大規模災害に備えるために、速やかに公職選挙法の改正を行うことを求めます。
緊急事態における国会議員の任期延長その他の緊急事態条項の創設に反対し、大規模災害に備えるための公職選挙法の改正を求める意見書(PDF)
]]>当会は、国に対し、現在の再審手続きの実情及び刑事訴訟法上の再審に関する規定の問題点を踏まえ、
(1) 再審請求手続における証拠開示、及び、
(2) 再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止
に係る規定を新設する法改正を速やかに行うよう求める。
(1) 刑事裁判において無罪となるべき者に有罪判決を下し、刑を科す冤罪は、絶対にあってはならない国家による重大な人権侵害である。しかし、刑事裁判が人間により行われるものである以上、いかに刑事手続きを改善しても不可避なことである。
このため、刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)には再審に関する規定(以下「再審法」という。)が置かれ、再審で無罪となった場合に補償の請求も認められている(刑事補償法)。
(2) 再審法は、刑訴法における通常審の規定と同様に重要であるが、第435条から第453条のわずか19か条しかない。
再審請求の審理に係る規定は「事実の取調べ」を受命裁判官又は受託裁判官によって行うことができるとするものしかなく、審理が裁判所の広範な裁量に委ねられているため、裁判所によって審理の進め方が異なる「再審格差」が生じている。
また、再審法は、1922年(大正11年)改正の刑事訴訟法の規定を、不利益再審を廃止した点1を除きほぼそのまま引き継いでおり、被疑者・被告人に当事者としての主体的な地位を認めてその人権を保障しようという当事者主義的な手続きの構造に変化している現行の刑訴法の諸規定と整合せず、諸外国における再審制度の見直し等も反映できていない。
(3) このため、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は60年前から再審法の速やかな改正を求める取組を開始し、学者や再審事件を担当する弁護士も現行の再審法の不備を指摘し声をあげ続けているものの、再審法の改正に向けた立法の動きはないに等しい。
法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会における意見(「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」2。以下「特別部会意見」という。)において「再審請求審における証拠開示」が「今後の課題」として採り上げられたが、その後の検討は進んでいない3。
この結果、現行の刑訴法になってから75年も経つのに、有罪確定判決を争うために再審を請求する側は、無用かつ著しい手間と時間の負担を強いられ続けている。最終的に再審無罪という結論が出ればそれで良いのではない。再審無罪を獲得するのに気が遠くなるような年月を要し、その間、刑務所暮らしをさせ、人生を台無しにすることはあってはならない。
(4) 当会は、日弁連とともに再審法改正に向けた活動を行い、個別事件に係る会長声明4において再審法の改正の必要性を訴えてきた。
再審法の不備による再審手続きの長期化の中で請求人の高齢化が進む今、当会は、本決議により、国に対して改めて再審法の改正を速やかに行うことを強く求めるとともに、当会としてもその実現に向けてさらに全力で取り組む決意を宣言する。
(1) 再審法について改正すべき対象は様々考えられる5が、本決議においては、当会が速やかに改正する必要性が特に高いと考える二つの項目を採り上げる。
その一つは、再審請求手続における証拠開示を認める規定の新設である。
現状、再審法に証拠開示の規定がないことから、裁判所の訴訟指揮権によって証拠開示が行われているが、裁判所の広範な裁量が認められているため、裁判所の積極的な訴訟指揮により多くの重要な証拠が開示された事件もあれば、訴訟指揮に消極的なために証拠開示が進まない事件もあるという、いわゆる「再審格差」が生じている。
例えば、布川事件における第2次再審請求審では多数の未提出証拠が開示され、再審開始決定に繋がったが、第1次再審請求審で証拠開示が適切に行われていれば、その再審請求審において再審開始決定がされ、もっと早く再審無罪との判断を得ることができたはずである。
どこの裁判所においても同様の基準によって証拠開示が認められるべきであるから、再審請求手続における証拠開示の規定を新設する法改正を速やかに行うべきである。
(2) しかしながら、現在、証拠開示の法制化に向けた議論は、前記のとおり進んでいない。
前記の特別部会意見を受けて成立した2016年改正刑訴法の施行3年後見直しを行うために、2022年(令和4年)に改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会が法務省に設置されたが、同協議会においても、委員から早期の検討を求める意見が出たものの容れられず、いつ検討されるかも不明である6。
このような法改正に向けた議論すら進めようとしない現状は、到底看過できるものではない。
(3) なお、当事者主義がとられている通常審との審理構造が異なることを理由に証拠開示の導入に否定的な見解もあるが、証拠開示規定の要否や内容が、当事者主義、職権主義といった考え方から一律に決まるものではないことは、2004年(平成16年)の刑訴法改正における通常審における証拠開示規定の導入の際も前提とされていた。再審請求手続きにおいて別異に考える必要はない。
また、証拠開示一般に問題点として挙げられるプライバシー等の問題は、証拠リストや開示の基準・手続を整備することで回避可能であり、再審請求手続における証拠開示規定を整備することを妨げる理由とはならない。
以上の点を含めて直ちに議論を行うべきである。改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会では、検討すべき課題が多く、再審請求審における証拠開示について検討する時間がないということであれば、同協議会とは別に議論を進めれば良く、同協議会における議論を待つ理由は見当たらない。
(4) よって、当会は、国に対し、再審手続における証拠開示に関する議論を直ちに開始し、それに関する規定を新設することを強く求める。
(1) 当会が速やかに法改正する必要性が特に高いと考えるもう一つの項目は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止することである。
刑訴法第450条は再審開始決定に対する即時抗告を、同法第433条は特別抗告を、検察官が行うことを明確には否定していない。かつては検察官による即時抗告が棄却されると再審開始決定が確定することが多かったが、近時は検察官が特別抗告までするケースが増えている。
この結果、ただでさえ再審請求審の審理期間が長いのに、再審開始決定が出ても不服申立てによって再審請求に係る審理が長引き、冤罪被害が長期化するという弊害が数多く指摘されている。
しかしながら、検察官による不服申立てを禁止する法改正に向けた議論は、証拠開示以上に進んでいない。
(2) 刑事裁判において検察官に上訴や抗告といった不服申立てを認めること一般についても議論はあるところであるが、少なくとも、再審請求審は、再審の審理を始めるか否かを判断するだけの手続きであって、無罪か否かといった実体判断を行う手続きではない。検察官がなお有罪を主張するというのであれば、再審公判で主張、立証すれば良いのである。
そもそも、現行の再審法においても、再審制度は憲法第39条(二重処罰の禁止)に基づき冤罪被害者を救済することのみを目的とするものとなっている。そして、職権主義がとられている現行の再審請求審においては、検察官は、当事者ではなく、公益の代表者として関与するに過ぎない以上、通常審のように不服申立てを認めるべき理由はない。
仮に再審開始決定が不適法である場合(刑訴法第446条参照)に不服申立てを認める余地があるとしても、再審開始決定の根拠となった事実認定についてまで検察官に不服申立てを認めるのは、公益の代表者としての地位を逸脱している。
(3) 以上のとおり、検察官に再審開始決定に対する不服申立てを認めることは現行の再審制度を前提としても不当である上、再審請求審が事実上の決着の場となるという、再審請求審と再審公判という二段階手続を設けた趣旨を無視した運用がされ、再審請求審の審理が長期化している現状を踏まえるならば、検察官が再審開始決定に対する不服申立て(少なくとも事実誤認を理由とする不服申立て)をすることを明文で禁止することが必要である。
以上から、当会は、国に対し、冤罪被害の実態を直視しその被害を早期に救済できるようにするため、再審手続における証拠開示規定、検察官の再審開始決定に対する不服申立てを禁止する規定を新設することを内容とする法改正を速やかに行うよう求める。
刑事訴訟法における「再審」に関する規定に関し、
証拠開示及び検察官による不服申立ての禁止に係る規定を新設する法改正を求める決議の件(PDF)
本日、日本国憲法が施行されてから76回目の憲法記念日を迎えました。
わたしたちは、普段、憲法の存在を意識せずに生活していると思います。憲法とは何でしょうか。それは国がわたしたち国民と交わした約束です。
憲法には、わたしたちが、平和で、自分らしく、健やかに生きていくためのさまざまな取り決めが書かれています。
例えば、憲法は、わたしたちが個人として尊重されるとしています。ひとりひとりの人間が、自分らしく生きていくことを憲法は保障しています。
また、憲法は法の下の平等を定めています。人種、信条、性別、生まれや家柄で差別することを憲法は禁止しています。
このような取り決めはただのスローガンではありません。国は憲法を守る義務を負っています。憲法という約束を守るのは、国民ではなく国の方であり、憲法に違反する法律や制度は無効となります。このような考えを立憲主義といいます。
国が憲法を守っているか、立憲主義に反していないかについては、わたしたち国民の側も、国の行っていることに目を光らせる必要があります。弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命としています。当会は、これからもこの使命を果たすために、積極的な活動を続けていきたいと思います。
憲法記念日を迎えての会長声明(PDF)
]]>2023年(令和5年)3月13日、東京高等裁判所は、「袴田事件」第二次再審請求事件について、再審開始を認め、袴田巌さんの裁判のやり直しを命じる決定を行い、その後再審開始決定が確定しました。
「袴田事件」は、1966年(昭和41年)に味噌製造会社専務宅で一家4名が殺害された強盗殺人・放火事件です。この事件の犯人として起訴された袴田巌さんは、当初から無実を訴えていましたが、最高裁で死刑判決が確定しています。
2014年(平成26年)3月27日に静岡地方裁判所が、再審開始を認めて裁判のやり直しを命じ、「耐え難いほど正義に反する状況にある」として、袴田さんの身柄の解放(拘置停止)を命じましたが、検察官の即時抗告により再審開始決定が確定するまでに実に9年もの時間が経過しています。
再審開始決定が確定したことにより、裁判のやり直しを行う再審公判が開始されることになりますが、報道によれば、検察官は、本年4月10日に静岡地裁で開かれた三者協議において、再審公判における立証方針を決定するために3か月を要すると述べたとされています。
袴田さんは、現在87歳の高齢で、47年もの長期間の身体拘束によって心身を病むに至っており、袴田さんの救済に一刻の猶予も許されません。
再審開始決定に至る長期の審理において、本件の争点についての審理は、既に十分尽くされており、検察官が新たな有罪立証を行うことは許されないというべきです。
当会は、速やかに再審公判が開始され、袴田巌さんに対する無罪判決が出されることを強く求めます。
また、えん罪被害者を速やかに救済していくために、当会は、政府及び国会に対し、再審における証拠開示の法制化、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、再審公判の手続規定を含む刑事訴訟法の改正を行うことを求めます。
]]> 東京都狛江市で2023年1月に発生した特定少年による強盗致死事件(以下「本事件」といいます。)に関し、東京地方検察庁立川支部は同年4月21日、公判請求するとともに、当該特定少年の実名を公表し、一部の報道機関が、実名報道を行いました。
2022年4月1日に「少年法等の一部を改正する法律」(以下「改正少年法」といいます。)が施行され、18歳及び19歳の「特定少年」のとき犯した罪により公判請求された場合、少年の氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等により当該事件の本人であることを推知できるような報道の禁止が解除されました。
しかし、改正少年法の衆議院・参議院の各法務委員会の附帯決議においても、「インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならない」とされています。
したがって、特定少年の実名公表及び報道にあたっては、少なくとも上記附帯決議の趣旨を踏まえた慎重な検討が必要です。
しかし一部報道によれば、東京地方検察庁立川支部は「強盗致死という重大事案であることを踏まえ、諸般の事情を考慮し」て公表したとしており、また、本事件について実名報道(推知報道を含む)をした一部報道機関は、その理由につき、「事件の重大性、社会性などを総合考慮」「被害者が死亡していることや、社会に与える事件の重大性を考慮」などと説明するものや、そもそも何ら理由の説明もなく漫然と実名を報じるものすらあります。このような理由からは、上記附帯決議の趣旨を踏まえた慎重な検討をしたことが読み取れません。
このように、今回の東京地方検察庁立川支部による特定少年の氏名公表、及び一部報道機関による実名報道(推知報道を含む)は、「特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮」したものではないといわざるを得ません。
当会としては、東京地方検察庁立川支部及び実名報道(推知報道を含む)をした一部の報道機関に対し、厳重に抗議するとともに、報道機関に対して、少年法を尊重し、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分に配慮した対応を取るよう重ねて強く要望します。
トラブルに直面して弁護士のサポートを受けたいと考えたとき、訴訟費用や弁護士費用のことが気になってしまう、という方は少なくないと思います。現在は、自動車保険の特約等による弁護士費用保険の普及が進みつつありますが、保険料を支払う余裕がない方にとっては弁護士費用等の問題は司法アクセスを阻む大きなハードルになってしまいます。
「民事法律扶助」は、このように弁護士費用等が出せなくて困っている人に対してそれらの費用等を援助することによって、裁判を受ける権利(憲法第32条)を保障し、その正当な権利の実現等を図ることを実質的に保障する制度です。1952年に設立された財団法人法律扶助協会によって開始されましたが、総合法律支援法(2004年制定)に基づきその実施は国の責務とされ、現在は日本司法支援センター(法テラス)がその事業を行っており、年間10万件から11万件程度の事件について、弁護士費用等を援助しています。
しかし、我が国の民事法律扶助制度は、利用者が財産的利益を得たか否かに関係なく、原則として援助を受けた費用の全額を償還する「立替・償還制」となっており、利用しづらいものとなっています。特に現在、民事法律扶助が利用される事件類型は、離婚や養育費請求等の家事事件、生活困窮に伴う債務整理や自己破産等、利用者の生活を維持するために不可欠なものが約8割を占めています。利用者が民事法律扶助を利用して法的問題を解決できたとしても、償還の負担が利用者の家計を圧迫し、生活の立て直しを遅らせ、新たな困難を招くような事態が生じており、さらにはその負担を慮って民事法律扶助の利用を差し控えたり、諦めたりすることも少なくないと指摘されています。諸外国では、法律扶助の予算規模が我が国よりはるかに大きく、かつ、原則として公的資金による「給付制」となっています。我が国の民事法律扶助についても、利用者負担のあり方を見直し、立替・償還制ではなく原則給付制とし、資力が一定程度を超えている利用者のみ負担能力に応じて負担する(応能負担)など、利用者負担の軽減を図ることが必要です。
また、現在の民事法律扶助は裁判になりうるような民事紛争案件のみが対象となっていますが、それ以外にも、子どもや高齢者・障がい者、在留資格を有しない外国人、犯罪被害者など、いわゆる社会的弱者とよばれる人たちの権利擁護のために弁護士の早期支援が必要な事案が少なくありません。これらの事案については現在、日本弁護士連合会が費用を負担して法的支援を行っていますが、これらの事案に対する法的支援は本来、国費・公費で賄われるべきであって、民事法律扶助の対象事件の範囲拡大が求められます。
そして、司法におけるセーフティネットである民事法律扶助制度が持続的に発展していくためには、その担い手としての契約弁護士(日本司法支援センターと民事法律扶助契約をしている弁護士)の確保が必要となります。ところが、財政基盤が脆弱であったために弁護士報酬が低廉に抑えられてきた扶助協会時代の扶助制度が継承されてきたという経緯もあって、民事法律扶助における弁護士報酬は一般的な弁護士報酬の額より相当程度低廉なものとなっています。また、法的紛争が複雑になっている中で、さらに業務量や労力に見合わなくなっているという実情もあります。多くの弁護士が、民事法律扶助の社会的意義に鑑みてそれを支えようと努力していますが、このままでは弁護士が民事法律扶助の担い手としての活動を続けることが困難となりかねない、という懸念があることも率直に指摘せざるをえません。
以上のことから、当会は、国に対し、全ての人が司法にアクセスできるように、民事法律扶助における利用者負担の見直し、民事法律扶助の対象事件の拡大及び持続可能な制度のためにその担い手たる弁護士の報酬の適正化を求めます。
]]> 内閣府は、2022年12月6日「日本学術会議の在り方についての方針」を、同月21日「具体化検討案」としての追加説明文書を示しました(以下、これらを合わせて「方針」といいます。)。
「方針」では、日本学術会議(以下「学術会議」といいます。)には「政府等と問題意識や時間軸等を共有しつつ、中長期的・俯瞰的分野横断的な課題に関する質の高い科学的助言を適時適切に発出することが求められている」と述べ、学術会議の抜本的な改革の断行を掲げています。そして会員・連携会員に求められる資質等の明確化、第三者委員会による透明性の高い厳格な選考プロセスなど「選考・推薦及び内閣総理大臣による任命が適正かつ円滑に行われるよう必要な措置を講じる」としています。そして、この「方針」に基づき、今国会中にも法案が提出される可能性が高いと報道されています。
この「方針」に対し、学術会議は、同年12月21日に発表した声明において、①学術会議が既に独自に改革を進めているもとで、法改正を必要とすることの理由(立法事実)が示されていない、②会員選考への第三者委員会の関与が提起されており、学術会議の会員選考の自律性・独立性への介入のおそれがある、③学術には政治や経済とは異なる固有の論理があり、「政府等と問題意識や時間軸等を共有」できない場合があることが考慮されていない、等の懸念事項を挙げ、この「方針」が学術会議の独立性に照らしても疑義があり、その存在意義の根幹に関わる重大なものであるにもかかわらず、学術会議等との丁寧な意見交換や国民との対話を欠いたまま公表されたことに対して強い危惧を抱かざるをえないとし、これに基づく今般の法改正の動きを拙速なものとして強く再考を求めています。
当会が2020年10月29日に発出した「日本学術会議の会員任命拒否に抗議する会長声明」において指摘したように、学問研究は客観的真実を追求するものであり、既存の理論や所与の社会的実態等に対して批判的、懐疑的な立場からも検討・検証を行うことがその生命といえます。そのため、学問研究には政治的・経済的・社会的干渉を排除した独立性が強く求められるのであり、「わが国の科学者の内外に対する代表機関」(日本学術会議法第2条)である学術会議につき、同法第3条があえて、学術会議は「独立して」職務を行うと定めているのも、このことに由来します。これに対し、今回の「方針」は、学術会議の声明で指摘されているとおり、会員選考への第三者委員会の関与や「政府等と問題意識や時間軸等を共有」することを求めるなど、学術会議の独立性を危うくしかねない重大な問題を含んでいます。この「方針」に基づき、学術会議との十分な協議も国民的議論もないまま性急に法改正を進めることは、学術会議の独立性と活動・組織の自律性を大きく損ない、ひいては科学者等を委縮させ、憲法第23条の学問の自由をも脅かすことになると言わざるをえません。
様々な問題が生起している現代社会において、「科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させる」という学術会議の目的(同法第2条)はますます重要になっていますが、科学を政策立案に活かしていくためには、学術会議の声明が指摘しているとおり、まず、政府と学術会議との間の信頼関係の構築が何より肝要です。その点で指摘する必要があるのは、2020年10月、菅義偉内閣総理大臣(当時)が、加藤陽子東京大学教授ら学術会議が推薦した6名の会員候補者につき、政府自身が従前から行っていた解釈を恣意的に変更して任命を拒否し、かつ、その理由について政府が今に至るまで具体的な説明を行っていないことです。この任命拒否に対しては、学術会議はもちろん、多くの学会や科学者らが抗議の声をあげ、当会も前掲の会長声明において、日本学術会議法に違反し学問の自由の精神に反するものとして厳重に抗議しました。政府は、まずはこの任命拒否について説明を尽くしたうえで、今後の学術会議の在り方について、現在行われている学術会議自身による改革を踏まえつつ学術会議と十分に協議を行うべきです。
当会は、政府に対し、この「方針」に基づく法案の提出に反対し、「方針」の撤回を求めるものです。
]]>1 司法制度は社会に法の支配を行き渡らせ、市民の権利を実現するために必要不可欠な社会的インフラであり、それを担う法曹は公費をもって養成されるべきです。2011年(平成23年)、司法修習生に給与が支給されていた従前の制度が改変されて無給となり、生活費等の援助が必要な修習生に対して国が金員を貸与することになりましたが、それによる過重な経済的負担がその後の法曹志望者の激減という事態の一因となったとの指摘等を受けて再び制度が改正され、2017年(平成29年)以降に採用される修習生に対しては修習給付金が支給されることとなりました。しかし、その間に司法修習生として採用された者(制度の谷間におかれてしまったいわゆる「谷間世代」。司法修習新第65期から第70期。)は、給与も修習給付金も受けることができず、今も経済的負担に苦しみ、不公平感を抱かざるをえない状況におかれ続けています。
当会は、2017年(平成29年)6月1日及び2019年(平成31年)2月1日に会長声明を発出する等、「谷間世代」の不公平を是正するための経済的措置の必要性等を訴えてきましたが、未だ問題は解決していません。
2 昨年11月29日に衆議院第一議員会館において開催された院内意見交換会では、「谷間世代」の当事者である弁護士らから、刑事弁護、被災者支援、ヘイトスピーチ被害者支援など、それぞれが弁護士としての社会的使命を果たしていることが報告されました。「谷間世代」に属する弁護士も、他の世代の弁護士と同様に修習専念義務を負いながら司法修習を行い、弁護士となった後は、市民の権利擁護と社会正義の実現のために働いています。
冒頭にも述べたように、三権の一翼たる司法を担う法曹は社会の人的インフラであり、その養成は公費によって行われるべきものです。特に、国内における司法ニーズの多様化を踏まえれば、公費による充実した法曹人材の育成は、現在の政府が掲げる「人への投資」という方針にも整合するものであり、最終的な受益者は国民といえます。「法曹資格は自らの利益のためのものであるからその取得費用は自ら負担すべきである」という「受益者負担」の考えは法曹養成には妥当しません。ましてや「谷間世代」のみが司法修習中に無給状態を強いられ、経済的負担を負わなければならないことに合理的な理由は見出し難いといわざるを得ません。
3 「谷間世代」の当時者が提起した給費制廃止違憲確認訴訟の名古屋高等裁判所判決(2019年(令和元年)5月30日)において、「従前の司法修習制度の下で給費制が果たした役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については、決して軽視されてはならない」、「谷間世代」の多くが、「貸与制の下で経済的に厳しい立場で司法修習を行い、貸与金の返済を余儀なくされている・・・などの実情にあり、他の世代の司法修習生に対し、不公平感を抱くのは当然のこと」、「谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値する」等と付言されているとおり、「谷間世代」が抱えている不公平感の是正及び経済的措置は国会において実現される必要があります。
この間、国会議員からも多くの応援メッセージが寄せられ、その数は、2023年(令和5年)3月3日に360通となり、衆参両院の合計議員数の過半数に達しました(同月22日時点の応援メッセージの数は371通)。このことからも、「谷間世代」の問題解決に関する国民の理解が得られつつあることは明らかであり、「谷間世代」に対する経済的措置実現の機は熟しています。
4 当会は、「谷間世代」の不公平な状態を少しでも是正するべく、当会の「谷間世代」に属する会員に対する支援金給付等の施策を講じてきました。しかしながら、この問題の抜本的な解決のためには、やはり国による「谷間世代」に対する一律給付の措置が不可欠です。
よって、当会は、「谷間世代」に対する不公平を一刻も早く是正するため、改めて、国に対し、早急に、「谷間世代」に対する一律給付の実現のための措置を求めます。
司法修習期間中に給与又は修習給付金を受けることができなかったいわゆる「谷間世代」に対する一律給付の実現を求める会長声明(PDF)
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