生活保護基準の拙速な引き下げに反対する会長声明

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更新日:2013年01月30日

2013年(平成25年)1月30日
第二東京弁護士会会長 橋本 副孝
12(声)第8号

 厚生労働省が、生活保護基準の妥当性を検討することを目的として設置した社会保障審議会生活保護基準部会(以下「基準部会」という)が、本年1月18日に報告書をとりまとめた。これを受けて、政府は、2013年1月29日、新年度の予算案で、3年かけて総額で670億円程度を段階的に減らすことを閣議決定した。厚生労働省によると、この見直しで夫婦と子どもの世帯や都市部に住む世帯を中心に、96%の世帯で最大で10%減額されると言われている。この生活扶助基準額の削減により、単身世帯(20から40歳)が現在の生活扶助費8万5000円から約7万8000円に、母子世帯(母親と子ども1人)は約15万円が約14万1000円に、3人世帯(夫婦と子ども1人)は約17万2000円から約15万6000円に削減されると報道されている。
 生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、我が国における生存権保障の水準を決する極めて重要な基準である。加えて、最低賃金の引き上げ目標額、地方税の非課税基準、介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準、就学援助の給付対象基準など、福祉・教育・税制などの多様な適用基準にも連動しているため、市民生活への影響も大きい。
 このような影響の大きさに鑑みれば、生活保護基準の在り方については、基準部会における学術的な観点から、客観的な生計費等による実態を踏まえて、生活保護基準額を検討するべきである。この観点から導き出されるべき「健康で文化的な最低限度の生活」の客観的な検討を軽視して、低所得者の消費支出が生活保護基準を下回っていることとの比較で、一律に生活保護基準額を削減することには慎重でなければならない。
 新年度の予算案の審議においては、格差と貧困がこれ以上拡大しないよう、また貧困の連鎖を断ち切り、すべての国民が「健康で文化的な最低限度の生活」を営めるように、生活保護受給者や低所得者の生活実態に即した客観的な生活保護基準により決定されるべきであり、拙速な生活保護基準の大幅かつ一律の削減には、当弁護士会として反対するものであり、より慎重な審議を求めるものである。

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