少年の実名報道についての会長声明

LINEで送る
更新日:2013年03月19日

2013年(平成25年)3月19日
第二東京弁護士会会長 橋本 副孝
12(声)第12号

 本年2月28日に東京都武蔵野市吉祥寺の路上で発生した強盗殺人被疑事件について、2人の少年が逮捕、勾留され、取調べを受けている。
 この事件について、3月7日発売の「週刊新潮」は、少年らの実名及び写真を掲載した。
 このような報道行為は、少年時の犯行について、氏名、年齢、職業、容ぼう等によりその者が当該事件の本人と推知することができるような記事又は写真の報道を禁止した少年法61条に違反するものであり、極めて遺憾である。

 少年事件の背景には、家庭、地域、学校等における様々な要因が存在する。これらが少年の成長過程に複雑に作用して引き起こされた少年事件については、当該少年への非難のみに比重を置くのではなく、少年の可塑性をとらえ、成長発達の可能性を重視するべきである。社会的に有益であるかどうかという視点からみても、少年事件をおこした少年の実名報道を制限することは、少年の立ち直りと再犯の防止に資する。それとともに、少年がマス・メディアに大きく取り上げられることによって有名になる「悪のヒーロー化」を防止し、模倣による少年非行の伝播をくい止める効果もある。
 このような見地から、少年法61条は、少年の更生・社会復帰を阻害する実名報道、写真掲載を、事件の軽重を問わずに禁止している。国際的にも、子どもの権利条約は、6条2項で子どもの成長発達権を尊重する旨を明らかにしたうえ、40条2項で、刑法を犯したとされる子どもに対する手続の全ての段階における子どものプライバシーの尊重を保障している。また、少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)8条も、少年のプライバシーの権利は、あらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつきうるいかなる情報も公表してはならないとしている。

 報道の自由もまた、憲法が保障する重要な権利である。しかし、事件やその背景を報道する上で、少年の実名及び写真の掲載は、不可欠な要素とは言えない。少年法の明文規定を無視し、実名報道により少年に対する社会的制裁を加えることは、報道の自由を逸脱した行為と言わざるを得ない。
 当弁護士会は、各報道機関が、少年法を尊重して適切な報道を行うよう要望する。

もどる