東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の時効等について民法を適用せず、時効期間を延長するなどの特別措置法の制定を求める声明

LINEで送る
更新日:2013年09月17日
2013年(平成25年)9月6日
東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎
第一東京弁護士会 会長 横溝 髙至
第二東京弁護士会 会長 山岸 良太

 2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件原発事故」という。)について、民法上の不法行為に関して定められた3年の消滅時効の規定が適用されると、2014年3月以降、被害者の損害賠償請求権が消滅しかねないというきわめて深刻な問題が生じている。
 本年5月29日には、時効の中断に関する特例法が制定され、3年の時効期間が経過する前に原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)への和解仲介の申立てを行っていた場合、その手続で和解が成立しなかったとしても、和解仲介の打切りの通知を受けた日から1ヶ月以内に損害賠償請求の民事訴訟を提起すれば、遡ってセンターへの申立時に訴えを提起したものとみなして時効の中断を認めることとされた。
 しかし特例法は、以下の通り、被害者救済のためには不十分である。
 第1に、時効中断の救済を受けられる被害者の範囲が3年の時効期間の満了前にセンターに対して和解仲介申立てを行った者に限定されている。第2に、本件原発事故により生じた損害は、不動産や家財の損害、就労不能による損害、精神的損害、避難費用など多種多様であるところ、被害者が各被害を正確に把握し、証拠を収集して短期的に権利を行使することは極めて困難である。第3に、和解仲介の打ち切りから1か月以内に訴訟提起をすることを被害者に求めるのは、過度な負担を強いるものと言わざるを得ない。
 また、民法上、不法行為による損害賠償請求権は、20年を経過したときその権利が消滅するという除斥期間の規定があるが、これに関しては中断効が認められないと解されている。放射性物質が人体に与える影響については、未だ科学的知見が確立しておらず、仮に除斥期間の規定が適用されると、放射線の影響による健康被害が本件原発事故から20年の経過後に確認された場合、損害賠償の請求が認められない可能性が高い。
 時効の特例法案の審議に際して、参議院文教科学委員会は、本年5月28日に「平成25年度中に短期消滅時効及び消滅時効・除斥期間に関して、法的措置の検討を含む必要な措置を講じること。」とする附帯決議を可決した。
 国は、この附帯決議を踏まえて、本件原発事故による全ての被害者に対する確実かつ適正な損害の賠償を保障するために、被害者の権利行使の妨げになる消滅時効(民法第724条前段及び同法第167条第1項)及び除斥期間(民法第724条後段)の規定を適用せず、時効期間を延長する(例えば時効期間は、「権利行使が可能になった時から10年間」とし、法施行後5年以内に再延長を含めて見直す)などの特別の立法措置を、可能な限り早期に講じるべきである。
もどる