安保関連法案の衆議院強行採決に抗議する会長声明

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更新日:2015年07月16日

2015年(平成27年)7月16日
第二東京弁護士会 会長 三宅 弘
15(声)第9号

 与党である自由民主党・公明党は、2015年5月15日に国会に提出された平和安全法制整備法と国際平和支援法(以下併せて「安保関連法案」という。)について、昨日7月15日に衆議院安全保障特別委員会にて、さらに本日16日に衆議院本会議にて、それぞれ採決を強行した。
 当弁護士会は、本年5月19日に、安保関連法案について、憲法第9条に関する政府の公式の見解や日米安保条約のこれまでの解釈も越えて、米国や他国の軍隊の戦争を後方支援するために自衛隊の海外派遣を可能にし、後方支援の名目で武力行使の事態をも生じさせる危険があることなどから、立憲主義等に違反する憲法違反であると批判する会長声明を発している。憲法は、前文で全世界の国民が平和のうちに生存する権利を確認し、第9条で国際紛争を解決する手段として、国権の発動たる戦争と武力行使を永久に放棄する恒久平和主義を明示し、集団的自衛権の行使はもちろん、戦争を後方支援するために自衛隊を海外に派遣することは認められないこととして解釈されてきたはずである。
 本年6月4日には、衆議院憲法審査会で与党推薦を含む3名のすべての憲法学者が安保関連法案について「憲法違反」と断じ、その後も圧倒的多数の憲法学者が憲法違反ないしその疑いがあると評価した。このような問題のある法案は本来廃案にすべきであり、本国会での成立は審議が不十分であるとして、少なくとも慎重審議をすべきであるとの世論が多数であった。
 しかるに、政府は世論を無視し、設定した審議時間の基準を超えたことを理由に、7月15日、16日の両日、上記の違憲の疑いの極めて強い安保関連法案の採決を強行した。この採決は、以下のとおり3点の瑕疵があり、到底許されるものではない。

1 そもそも安保関連法案は、10の法律の改正案を1つの法案にまとめた「平和安全法制整備法」と1つの新法で構成されているが、それぞれが複雑な内容を持つ。これをまとめて一括審議させることは、国民の理解をより一層困難にし国会を軽視するやり方であって、国会中心主義に反する。

2 実際の審議においても、未だ同法案の法理念や概念の整理しか議論されておらず、事実上11本の法案の内容や、具体的な問題点が議論尽くされていない。事実上11本の法案を110時間で議論することは不可能である。たとえば、自衛隊員が外国に派遣されて武器使用を行わねばならない事態に追い込まれれば、武力行使として交戦状態に入る危険すら負わされるが、この危険性についても、議論は尽くされていない。十分な審議もなく時間の経過を理由とし、議員の数を利用して採決を強行することは、国政を議会での審議に付託した国民主権原理に悖るといわざるを得ない。

3 また、憲法に反する法律は、いかに国会で採決されようとも憲法違反であるとの瑕疵が治癒されることはない。憲法違反の法案を、時間制限と数の理屈で通過させたことは、憲法の最高法規性を無視し、立憲主義に悖るといわざるを得ない。古来、ローマ法より、法の生命は、実質的な結果の妥当性・公平性であると同時に、その論理的説得力と議論の一貫性・明晰性にあるとされてきた。これに加えて、近代立憲主義は、権力者の限定なき法適用による権力行使を憲法によって制約することが人々の権利や自由を護るとして、最高規範としての憲法を厳格に解釈してきたのである。国際情勢の変化を強調しようとも、立憲主義違反の憲法解釈は、許されないのである。

 以上より当弁護士会は、安保関連法案の採決を強行したことについて強く抗議し、廃案を求めるとともに、今後も、戦争は最大の人権侵害であり、平和であってこそ自由と人権は護られるという観点から、立憲主義、恒久平和主義、国民主権等の憲法原理をふまえた安全保障政策を求めるものである。

安保関連法案の衆議院強行採決に抗議する会長声明(pdf)

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