少年の実名・顔写真報道を受けての会長声明

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更新日:2016年06月23日

2016年(平成28年)6月23日
第二東京弁護士会会長 早稲田 祐美子
16(声)第3号

 本年6月16日、最高裁判所は、宮城県石巻市において2010年(平成22年)に起きた殺傷事件について、1審及び2審で死刑判決を受けた元少年(犯行時18歳7か月)の上告を棄却する判決を言い渡し、これを受けて、今般、一部の報道機関は、元少年の実名及び顔写真を報道した。
 しかしながら、かかる報道は、少年時の犯行について、氏名、年齢、職業、容ぼう等によりその者が当該事件の本人と推知することができるような記事又は写真の掲載を禁止した少年法61条に明らかに違反するものである。
 少年事件の背景には、家庭、地域、学校等における様々な要因が存在するものであり、少年個人への非難のみに比重を置くのではなく、少年の可塑性と成長発達の可能性を重視するべきである。このような見地から、少年法61条は、少年の更生・社会復帰を阻害する実名報道、写真掲載を、事件の軽重、裁判終了の前後、少年が20歳に達したか否かを問わずに禁止し、少年及びその家族の名誉・プライバシーを保護することにより、少年の立ち直り、更生、再犯の防止を図ろうとしている。
 また、国際的に見ても、子どもの権利条約40条2項は、刑罰法規を犯したとされる子どもに対する手続のすべての段階における子どものプライバシーの尊重を保障している。また、少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)8条も、少年のプライバシーの権利は、あらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつきうるいかなる情報も公表してはならないとしている。
 そして、上記の理念は、少年に対する死刑判決が確定した場合でも異なるものではない。一部の報道機関は実名及び容ぼうの報道に踏み切った理由として、死刑判決の確定により、少年の社会復帰の可能性がなくなったことをあげるが、再審や恩赦制度により、少年が社会復帰する可能性はあり、少年法61条も、その規定上、少年に対する死刑判決が確定した場合について何ら例外を設けていない。
 報道の自由もまた、憲法が保障する重要な権利である。しかし、事件の原因や背景の分析こそが社会的に意味のあることなのであって、私人である少年の実名等を公表することは報道における不可欠の要素ではない。少年法に違反して、少年ないし元少年の実名を公表したり顔写真を掲載したりすることは、社会の正当な関心に応える方法ではない。
 当弁護士会は、これまでも、少年の実名及び写真を掲載した報道に対し、これに抗議する会長声明を公表した。それにもかかわらず、同種の報道が繰り返されていることは極めて遺憾であり、重ねて厳重に抗議する。
 当弁護士会は、各報道機関が、その社会的影響力や責任を十分に自覚し、少年法を尊重して適切な報道を行うよう、重ねて強く要望する。

少年の実名・顔写真報道を受けての会長声明(PDF)

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