コラム

「意思決定支援推進全国キャラバンin 東京」が開催されました

 去る平成29年3月25日、東京の三弁護士会で「意思決定支援推進全国キャラバンin東京」を開催しました。「意思決定支援」という言葉を初めて聞いた方もいらっしゃるのではないかと思います。これまでの成年後見制度では、ご本人にとって望ましい選択を、後見人を含む支援者が代わりに行ってしまう、ということが多々ありました。しかし、ご本人の人生なのに、ご本人の希望が不在のまま決められてしまって良いのだろうか、という批判もありました。そして、平成26年に日本が批准した障害者権利条約により、成年後見制度から、意思決定支援への転換を求められるようになりました。意思決定支援では、第三者的な視点から見るのではなく、本人中心主義の観点から、ご本人にとっての「最善の利益」を追求していく、ということになります。ご本人の意思決定を支援する、という意味で、意思決定支援という言葉が使われています。

 シンポジウムでは、まず、「障がい当事者の現在の生活について」として、水橋寛光さん・由子さんご夫婦と、寛光さんの補助人である菊地哲也弁護士から、水橋さんご夫婦の日常生活を伺いました。由子さんからは老人ホームでの仕事のやりがいを語ってくださいました。寛光さんからは、過去に、ご本人への説明のないまま入院等をしたときの納得できなかった心情を語ってくださいました。ご夫妻がともに、「自分のことは自分で決めたい」、と力強くお話されていたのがとても印象的でした。

 つづいて、講師である水島俊彦弁護士から、サウスオーストラリアでの意思決定支援の実践例を紹介いただきました。意思決定者であるご本人が、支援者とチームを組んで、様々なコミュニケーションツールを用いて、ご本人が意思を表明し、支援者がそれを読み取って、ご本人の希望の実現に向けて、一緒に動いていることがよく分かりました。

 一見すると、ご本人が表明した希望を読み取る、というのは簡単なことのように思えますが、実践するにはスキルが必要とも感じました。例えば、シンポジウムでは、普段はあまり自分の進路希望を語らない少年が、『電車の中』であると、それまでとうって変わって、自分の意見や思いなどを、ぽつぽつと語り始めてくれるようになった、というケースが紹介されました。ご本人の性格や好み、障がいについての理解がないと、ご本人の希望を聞いた気分になって、結局、周囲の支援者が望んでいるような選択を、ご本人に押しつけてしまうことになってしまうこともあるのだろうと思います。

 意思決定支援の考え方は、現在の後見実務にも取り入れられる考えが多々ありました。今回のシンポジウムは、私たち弁護士を含む支援者が、ご本人にとって最適な選択をしようと思って、かえってご本人の希望が不在で進められてしまう後見実務の在りかたに、見直しを迫るものでした。