コラム

成年後見に鑑定は必須? 時間もかかるし,費用もかかる?

 「成年後見の申立てをすると,本人にどの程度判断能力があるか,裁判所が必ず鑑定を行うと聞きました。鑑定には,時間も,費用もかかるそうですね」

 成年後見の申立てに関する相談の中で,こういった趣旨のことをおっしゃる相談者の方がいらっしゃいますが,このような認識は必ずしも正確ではありません。

 今回のコラムでは最高裁判所が発表した統計から,鑑定の実際をご紹介したいと思います。

◆ 鑑定が実施されるのは全体の約10%

 家事事件手続法119条1項は,「家庭裁判所は,成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ,後見開始の審判をすることができない。ただし,明らかにその必要がないと認めるときは,この限りでない。」と規定しており(保佐については同法133条が規定),必ずしも鑑定を必須としているわけではありません。

 実際,平成27年1月から12月までの1年間を例に採りますと,平成27年中に終局した成年後見関係事件(後見開始,保佐開始,補助開始,任意後見監督人選任事件をいいます。以下同じ。)のうち,鑑定が行われたのは,9.6%に過ぎません(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-平成27年1月~12月-」より)。

 つまり,鑑定が行われる事件は全体の約10%に過ぎず,残り約90%の事件では鑑定が行われなかった,ということです(平成25年,平成26年に関しても,ほぼ同様の統計結果が最高裁判所事務総局家庭局より発表されています。以下同じ。)。

 鑑定が実施される事件の割合が少ないのは,家庭裁判所がご本人の精神の状況を判断するにあたって診断書の記載やご親族からの情報提供等を重視し,そういった情報ではご本人の判断能力を充分に判断できない場合(=明らかに鑑定の必要がないとまでは認められない場合)に限って鑑定を実施する,という運用が定着しているためと考えられます

◆ 約90%の鑑定が2ヶ月以内に終了

 では,鑑定にかかる時間はどの程度でしょうか。

 平成27年1月から12月までの1年間を例に採りますと,平成27年中に終局した成年後見関係事件の鑑定期間は,1ヶ月以内のものが54.6%,1ヶ月超2ヶ月以内のものが36.1%です(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-平成27年1月~12月-」より)。

 約90%の鑑定が2ヶ月以内に終了していることから,鑑定を可能な限りスピーディーに行うという運用が定着しているといえるでしょう。

◆ 約95%の鑑定が10万円以下の費用

 最後に,鑑定にかかる費用はどの程度でしょうか。

 同じく平成27年1月から12月までの1年間を例に採りますと,鑑定費用が5万円以下のものが60.9%,5万円超10万円以下のものが36.6%です。

 約95%の鑑定が10万円以下で行われていることから,鑑定を可能な限りリーズナブルに行うという運用が定着しているといえるでしょう。

 今回は,最高裁判所が発表した統計をご紹介いたしましたが,より詳細なデータは以下のウェブサイト(「成年後見関係事件の概況」)でご覧いただけます。

http://www.courts.go.jp/about/siryo/kouken/