コラム

「意思決定支援」って何だろう?

ある認知症の女性が、自宅で転倒して長期入院。退院後、ご自宅で誰からもサポートを受けずに生活していくことは難しい状態になってしまいました。

 女性の後見人が、「施設とご自宅、どちらで暮らしたいですか?」と質問をすると、女性は、「う~ん、よく分からないから、後見人さんが決めて下さい。」と笑顔で答えます。後見人が、女性の家族や支援者にも同じ質問をすると、「特に自宅にこだわりも愛着もないようですから、施設がいいと思います。」とのこと。

 後見人は、施設入所の手続きをとりました。女性が施設に入所してからしばらくして、この後見人は、「意思決定支援」という言葉を知りました。

 「意思決定支援」とは、意思決定に困難を抱える人が、日常生活や社会生活等に関して自分自身がしたい(と思う)意思が反映された生活を送ることが可能となるように、その人を支援することやその仕組みをいいます。

 人は、自ら意思決定をしながら自分の人生を自律的に生きる権利を持っています。この権利は、憲法第13 条の自己決定権の一環として、人である限りすべての人に保障されている重要な基本的人権です。つまり、認知症や知的障害、精神障害等のために判断能力が不十分であるからといって、「自分のことを自分で決める」権利を奪われることはありません。後見人等が選任されているとしても、そのことに変わりはありません。

 ご本人のことは家族が一番よく分かっているからと、ご家族が良かれと思って、ご本人の代わりに全部決めてしまっていませんか?

 ご本人が何らかの意思表示をしたとしても、「客観的にみて適切ではない、不合理だから」と考慮せずに、これが本人のためだからと決めてしまっていることはありませんか?

 もしかしたら、このような家族や支援者からの扱いが続くことで、ご本人は、「自分のことを自分で決める」ということを諦めてしまうようになったのかもしれません。

 冒頭で紹介した認知症の女性のケースは、意思決定支援の観点からみると、沢山の疑問が残ります。

①もっともっと時間をかけて、女性が判断するために必要な情報を伝える工夫、粘り強く彼女の意思を汲み取る努力が必要だったのではないか。

②女性が、家族や支援者に気を遣って、自宅に居たいと言えなかった可能性もあります。場所や時間・人を変えて、何度も彼女に質問をすれば、彼女の答えは変わったのではないか。

 こういう疑問が残ってしまった原因は、後見人や家族・支援者に、「女性には、判断能力がないから、自分で決めるのは難しい」という思い込みがあったからかもしれません。

 意思決定支援の考え方・取組みは、近時、わが国でも着実に広がりつつあります。法整備・制度の構築も必要ですが、まずは、私たちが、「どんな障害があろうとも、人にはみな意思があり、支援さえあれば意思決定ができる。」ということを、「意識」することから始めてみませんか?