コラム

べてるまつりin浦河

 今年の高齢者・障がい者総合支援センター運営委員会の合宿(第5回)は、北海道浦河町で行なわれた「当事者研究全国交流集会」(1日目)と「べてるまつり」(2日目)に参加しました。

 浦河町では、過疎化のすすむ30年程前に、共同生活を営む精神障がいを抱えた人たちと支援者の方が、「町のためにできることはないか?」と考え、社会福祉法人浦河べてるの家を作りました。

 現在、べてるの家では、「当事者」(べてるの家では、精神障がいなどを抱えた人たちが自身やお互いのことをこう呼んでいます)100名以上が、スタッフとともに、日高昆布の販売、オリジナルグッズの製作、カフェの運営、野菜づくり、ゴミの回収や清掃などをして働いたり、お互いの生活をサポートしたりしています。また、多種多様なミーティングが頻繁に行なわれており、そこでは、当事者が生活や仕事や病気の苦労を公開し、それを研究材料として、お互いに意見を出し合い、実際にロールプレイをして、ひとりひとりが解決方法を模索するということが行なわれています(この実践は「当事者研究」と呼ばれています)。

 今回参加した「当事者研究全国交流集会」と「べてるまつり」は、このような当事者の日頃の生活や実践を発表して共有し、日々の苦労をプラスのエネルギーに変えていく場であったと感じました。

 とくに2日目に行なわれた、この1年間にあった面白い幻覚妄想を発表する「幻覚&妄想大会」が印象に残っています。

 今回のグランプリに輝いたのは、「家の鍵を飲め!」という妄想幻覚によって鍵を飲んでしまったが、一時鍵を飲んだことを忘れて仲間と鍵を探すも見つからず、最後にレントゲンを撮ると胃に鍵の影がくっきり写っていた、という体験です。大会で発表された幻覚妄想体験は、数名の役者が、軽妙な効果音を伴った即興の舞台劇として再現します(プレイバック)。これを見ると、「人が騒ぎながら家の鍵を飲みこむ」という、それだけでは理解不能と考えられるできごとが、その人にとってのリアルな体験として伝わってきます。そして、そのリアルな体験を、まさに日頃から幻覚妄想によって苦労している当事者ら自身が笑い飛ばしていました。

 べてるの家では、幻覚妄想について、「幻聴さん」と呼んで人格を認めたり、(副作用の強い)自分の救済方法と捉え直したりと、その意義を見つめ直すことが行なわれています。その一つの形が、幻覚や妄想を「面白い」「存在してもいいもの」として捉え直す「幻覚&妄想大会」であるように感じました。

 ともすれば、薬等によって除去されるだけの幻覚や妄想を、自分の人格と切り離して客観的に眺めながら、その人なりの意義を見出し自分の力に変えていくという実践は、精神障がいの問題を考える上で重要な視点であるとともに、私達が生きる上でも大きな示唆を与えてくれる普遍的なものであるように感じました。

 薬や入院に頼るのではなく、お互いに助け合いながら、それぞれの個性が持つ力がいかんなく発揮される場に参加できた、非常に有意義な合宿でした。