コラム

「意思決定支援」について

 一昨年10月に「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」が最高裁判所、厚生労働省および各専門職団体をメンバーとする意思決定支援ワーキング・グループにより策定されました。

 このガイドラインは、「成年後見制度利用促進基本計画」において、「利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善」として「後見人が本人の特性に応じた適切な配慮を行うことができるよう」に意思決定支援の在り方についての指針の検討が求められたことから策定されました。

 本ガイドラインの策定を受けて、国は、後見人等の受任者(専門職後見人・市民後見人・親族後見人・法人後見実施団体職員)や中核機関職員などを主な受講対象として、令和2年度と令和3年度の2か年において、全国47都道府県(令和3年度は32箇所)で研修を実施して成年後見に関わる各職域の方々への普及が進められています。また、第二東京弁護士会においても、会員を対象として研修を実施し、普及に努めています。

 「意思決定支援」(Supported Decision-Making)とは、特定の行為に関し本人の判断能力に課題のある局面において、本人に必要な情報を提供し、本人の意思や考えを引き出すなど、後見人等を含めた本人に関わる支援者らによって行われる、本人が自らの価値観や選好に基づく意思決定をするための活動を言います。

 そして、意思決定支援は、次の3つの基本原則に基づいてされなければなりません。

 第1 全ての人は意思決定能力があることが推定される。

 第2 本人が自ら意思決定できるよう、実行可能なあらゆる支援を尽くさなければ、代行決定に移ってはならない。

 第3 一見すると不合理にみえる意思決定でも、それだけで本人に意思決定能力がないと判断してはならない。

 意思決定支援を実施するためには、後見人や本人を周囲で支える各種の職種の人々によって「支援チーム」を形成し、本人と支援チームが一緒になって意思決定に向けての対話を行い、本人にとっての「最善の利益」を検討して、本人が自らの意思で決定をすることができるようにしなければなりません。

 前述の研修では、具体的な意思決定が必要になる場面を想定してどのような支援チームを形成し、本人とどのような対話を行って最終的な意思決定に進んで行くかを、受講者による討論を通して経験できるようになっており、想定されている場面についての動画も公開されています。また、意思決定支援の段階に応じて検討する事項を整理した、アセスメント・シートも用意されています。

 今後、後見事務の実務においては、重要な意思決定に際して、このガイドラインに沿って支援をすることが多くなるものと思われますので、専門職後見人だけでなく、周辺の各種職種の方々には、このガイドラインの考え方を身につけていただくことが必要になります。今年度の研修は、3月14日まで受講の機会があり、全てオンラインで実施されるために参加人数の枠に余裕がある限り、開催地に関係なく受講が可能ですので、まだ受講されていない方は受講されることをお勧めします(令和4年度は、国ではなく都道府県ごとに研修の実施が検討されるとのことですので、各都道府県にお問い合わせください)。

【参考】

成年後見制度利用促進基本計画(平成29年3月24日閣議決定)

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/keikaku1.pdf

意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン(令和2年10月30日)

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2020/kouken/20201030guideline.pdf

後見人等への意思決定支援研修申込サイト

https://ishiketteishienkensyu2021.jp/

後見人等を対象とした意思決定支援研修(含研修動画)

https://guardianship.mhlw.go.jp/guardian/training/

厚生労働省成年後見制度利用促進に関する資料・各種手引き等

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202622_00019.html