コラム

共感力の大切さ

皆さんは、「盲ろう者」ということばを聞いたことがありますか。聞いたことがない方でも、「盲ろう者」であるヘレン・ケラーとその家庭教師であるサリヴァン先生のお話は、伝記などで読んだり、聞いたりされたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

「盲ろう者」とは、「目(視覚)と耳(聴覚)の両方に障害を併せ持つ人」のことをいいます(認定NPO法人東京盲ろう者友の会ホームページ)。調査によると、日本全国に約1万4千人の盲ろうの方がいらっしゃると言われています(社会福祉法人全国盲ろう者協会「平成24年度盲ろう者に関する実態調査」)。

私たちは、年に一度、認定NPO法人東京盲ろう者友の会と共催で、盲ろうの方を対象とする無料の法律相談会を実施しています。

盲ろうの方は、障害の状態や、盲ろうになるまでの経緯等によって、コミュニケーションの方法が異なります。例えば、盲ろう者の手のひらに指先などで文字を書いて伝える「手書き文字」という方法や、話し手が手話を表し、盲ろう者がその手に触れて伝える「触手話」という方法などがあります。こうした、コミュニケーション方法や実際に相談される盲ろうの方のお気持ちを理解してより良い法律相談とするため、法律相談会を担当する弁護士は、事前に「疑似体験会」に参加することにしています。

疑似体験会では、実際に、アイマスクやヘッドホンなどをして、盲ろうの方と同様の状態となり、手書き文字でのコミュニケーションや歩行体験などを経験します。実際、私自身が疑似体験をしてみると、自分の伝えたいことがなかなか相手に伝わらず、もどかしい気持ちを抱いたり、通訳・介助者(盲ろう者に対してコミュニケーションや情報入手に関する支援をしつつ、自由に外出できるように移動介助を提供する人)と一緒に外を歩くと、見えない、聞こえないという恐怖で立ちすくんだりすることもありました。

我々は、「先生」などと持ち上げられて、ともすると、自分たちの専門的な判断や主張を相手方や依頼者に伝えることに一生懸命になりがちです。そうでなくとも、AIなどテクノロジーの進化によって、自分にとって心地の良い意見や似たような価値観が自らの周りに集まるようになって、一面では、共感力というものが減退しつつあるのではないでしょうか。

確かに、疑似体験などはアナログな方法ではありますが、相手の立場になって、何に困っているのか考えてみることや、相手に寄り添う姿勢というものは、こと法律相談に限らず、我々弁護士にとって、より良い仕事をしていく上でとても重要なことであると、疑似体験や法律相談会を通じて、認識を新たにしたところです。