コラム

遺言書作成の重要性

2022年度、相続人がいないために国庫に納められた金額は約768億円となり、記録が残る2013年以降最も大きい額となりました。通常、人が亡くなった場合には、亡くなった人が所有していた財産は、相続人に相続されます。しかし、相続人がいない場合において、特定の人に遺産を承継する手立てなどがとられない又は特別縁故者として財産を取得する手続きがとられないと、遺産は国庫に帰属することになります。

相続人がいない最も典型的な場合は、民法に定めのある法定相続人がいない場合です。法定相続人とは、配偶者、子、子がいない場合には両親といった直系尊属、子も直系尊属もいなかった場合には兄弟姉妹です。法定相続人がいたとしても、法定相続人全員が相続放棄をした場合や欠格・廃除により法定相続人の資格がはく奪された場合には相続人がいないことになります。

法定相続人がいない場合に備えて、遺産を国庫に帰属させることなく自分の希望する人に渡す最も簡易な方法としては、遺言書を作成することが挙げられます。遺言書の作成というとハードルが高いようにも思われますが、自分で作成することができる自筆証書遺言があります。自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自分で書いて(自書して)、押印して作成するものです(民法968条1項)。遺言書に財産目録を添付する場合には、そちらも自書する必要がありましたが、添付する財産目録について遺言者本人によるパソコン等での作成、遺言者以外の者による代筆、登記事項証明書や通帳のコピー等によって代替することが可能となりました(民法968条2項、こちらの改正は2019年1月13日から施行され、施行日前に作成された遺言については適用されません。)。ただし、財産目録の1枚ごと(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名押印する必要があるので注意が必要です。また、自筆証書遺言は紛失や改ざんのリスクがありますが、法務局における自筆証書遺言書保管制度を活用することによってそのようなリスクに対応することができるため、積極的な利用をおすすめします。この自筆証書遺言書保管制度を利用した場合には、相続開始後に家庭裁判所で検認を受ける必要がありません。

  • 法務省HP「自筆証書遺言書保管制度」参照

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

法務省では、自筆証書遺言をより作成しやすくするために、全文などに関してもデジタル機器を用いた遺言書の作成を可能とする方向性での法律改正を検討しているとのことです。このように自筆証書遺言を巡る動きの活発化にあわせて、弁護士に遺言書の作成を相談してみてはいかがでしょうか。